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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (13)

「ほんなこつ要らん世話ばっか、かけさせてくさぁ☹」

 

 炉箆裸が床にペッとツバを吐きながら、額の汗を右ポケットから出したハンカチで拭いていた。

 

 こいつなりに、実は冷や冷や😅の思いだったのだろうか。

 

 そのときになって――だった。

 

「なるほどぉ、炉箆裸にもとんでもねえ幼なじみがおったもんちゃねぇ♋」

 

 今初めて、通路の奥のほうから鼻の下に黒いチョビ髭を生やした、中年の男が歩いてきた。

 

 しかもそいつは、基鰤たち四人がかりで抑えている律子の顔を、失礼にも上から覗き込んでくれた。

 

「で、こいつが噂の女盗賊、穴生律子け☞」

 

「へい、そうなんです☻」

 

 炉箆裸がペコペコしているところを見ると、チョビ髭中年がこの場における、中心的役割の人物なのだろうか。律子は抑えられている格好のまま、チョビ髭中年に瞳を向けた。不利な立場でいる状況を、自分自身が気にも懸けないで。

 

「なんか、あんたが親玉みたいばいねぇ☛ それはそれでよかなんやけど、そもそもどげんして、こげな発掘され尽くされてなんも残っとらんことがようわかっとうこん城に、あんたらみたいな遺跡泥棒がおるとね!」

 

 この際である。たった今頭に湧き出た疑問を、一気にまくし立てる気丈ぶりを発揮してやった。

 

 これにチョビ髭中年が、満面で苦笑らしい笑みを浮かべてくれた。

 

「遺跡泥棒けぇ……くくく☻」

 

 一見紳士的態度なところが、なんだかとても気持ちが悪かった。

 

「簡単なことやろうが☻ ここにはもうお宝なんち、いっちょもねえっち誰も思うとるんやけ、そげな場所に他ん宝ば隠したかて、誰も探そうっち思わんけねぇ⛟✌ これこそ木ば隠すとやったら森ん中っちゅうことっちゃけ✌」

 

「そげんことばいね✎ あんたら他で盗んだお宝ば、ここに隠しに来とうっちゅうことけ⛽」

 

「先輩! 感心しとう場合じゃなかばってん!」

 

 一応の理解と納得をしてうなずく律子に、後輩の秋恵が一喝をしてくれた。だけどこれがどうやら、チョビ髭中年の癪に障ったらしかった。

 

「おい! こん女どもば黙らせんしゃい✋⛔ ペチャクチャしゃーしくてしょんなかけ⛐」

 

「へい!」

 

 チョビ髭中年がさも面倒臭そうな顔になって、炉箆裸たちに威張り腐った口調で命令した。これで実際に、チョビ髭中年がこの場における、中心人物である事実が証明されたわけ――とまあ、それはそれでけっこう。問題は、律子たちを力づくで抑えているヤローどもの両眼が、あからさまに好色の光を放っている状態である展開。そんな本心を炉箆裸が代表してか、これまた馬鹿親切にも、明け透けと言ってくれた。

 

「へへへっ☻ 律子ちゃんよぉ、おめえは知らんちゃろうけどなぁ、俺はこげん見えたかて、一時はおまえに『ほの字❤』やったこともあるっちゃけね☺ それがどげんや♨ あげな和布刈なんち野郎の女房なんかになっちまってくさぁ♨☠」

 

 これではただの、『横恋慕💀』であろう。


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