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『剣遊記 番外編Y』

第三章 美女が液体人間。

     (11)

 しかし律子からにらまれた男どものほうは、逆にと言うか、とっくに余裕の構えとなっていた。いくら女猛者がガンを飛ばしたところで、まったく効き目なしの態度でいるからだ。

 

 この状況は明らかに、律子たちが不利のよう。それを察した律子は、背中の秋恵に、そっと耳打ちでささやいた。

 

「こげんなったら、ここはもう逃げるしかなかばい☞ こいつらが本気になって追ってこんうち、こっから一気に駆け出すとよ✈」

 

「はい……⛵」

 

 小声だけど、秋恵も真剣な顔してうなずいてくれた。そのついでに律子は、この場における唯一の味方の男子(いっちょも頼りにならんばってん)――徹哉にも、一応の声をかけておいた。

 

「徹哉くんもわかっとうね⚠」

 

 でもってその返事は、やっぱり律子を立腹させるような、よけいなひと言だった。

 

「ハイ、ワカッタンダナ。バッテンデモ、悪イ人タチヲコノママホッテオイテハイケナイ結果ガ出ルト思ウンダナ」

 

「それはしょんなかと!」

 

 律子はつい大声でわめいた。おまけに状況を、さらに悪化させる展開にもなった。

 

「おい、こいつら俺たちんこつ衛兵隊に垂れ込む気らしいばい☢ そうはさせるかっちゅうと♨」

 

「ああっ! まずかぁーーっ!」

 

 我に返ったところで、すべては後の祭り。

 

「逃がすけぇーーっ!」

 

「きゃあーーっ!」

 

 まだ逃げ出す前から、秋恵が一番に、炉箆裸の手によって右手をつかまれた。それから炉箆裸に代わって三人の男どもから、床の上に抑えつけられる格好となった。

 

 一方で徹哉が、一応抵抗らしい抵抗――両腕をブルンブルンと、まるで五歳児のように振り回していた。

 

「皆サン、暴力ハイケマセント思ウンダナ。ドッコイ、オ父サントオ母サンガ泣イテルト考エルンダナ」

 

 その徹哉がうしろから、後頭部を木の棒で殴られた。

 

 カキーーンと。

 

 徹哉は誰もが目を丸くするような、訳のわからないセリフをつぶやいた。

 

「ハレ? 今ノ衝撃デ緊急自己防衛用ノ自動的機能しすてむガ作動シタンダナ、デゴワスタイ」

 

 それからこの場でヘナヘナと、それこそ糸が切れたあやつり人形みたいになり、両膝が崩れる感じで、床の上にパタッと倒れ込んだ。

 

 ところが徹哉を卑怯にも、うしろから木の棒で殴った下手人――冬父可は、なぜかうわ言ばかりを繰り返していた。

 

「お、おれは……生身の人間ば叩いたんよねぇ……?」

 

 その叩いた音は、律子の耳にも入っていた。

 

「……確かに人ば叩く音やなかったばいねぇ♋ なんか鉄ば叩くような感じやったばってん……♋」

 

 律子も大いにとまどいの気分だった。現に徹哉をぶっ叩いた当の冬父可は、いまだに棒を握っている両手が、なんだかビリビリとしびれているような感じに見えていた。

 

「こ、こいつ……いったい何モンね?」

 

 冬父可の疑問も、もっともであろう。だけど今現在、こいつの相手をしてくれる者なし。なぜなら秋恵を抑えている三人を除いて、残りの全員が律子に迫っている状況であるからして。


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