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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (8)

 話がかなり横道にそれたけど、この間にも律子の薔薇のトゲ付きツルは、男どもを雁字絡めで締め上げ中。もちろん本当に逝かせたらシャレにならないので、手加減は充分以上に配慮している――つもり。

 

 これが理由なのか、まだ意識がはっきりしている彼らの口からは、言ってはいけないセリフが、ポンポンと飛び出していた。

 

「こ、こりゃ特技なんてもんじゃねえよぉーーっ!」

 

「ば、化け物だぁーーっ!」

 

「まっ! 失礼やなか♨」

 

 強気であるのと同時。律子はけっこう短気でも有名。男たちの言動に、爆発的なムカつきを覚える結果となった。だけど、改めて自分自身の実情を顧みれば、ここは多少でも、冷静にならざるをえないところでもある。

 

「まっ……それもしょんなかばいねぇ〜〜☹」

 

 しかしやけんと言って、自分を侮辱した者に、決して容赦はしない信念なのだ。

 

「そやけどやっぱ、わたしば化けモン扱いするなんち、つまるもんかい! 絶対許しちゃらんのやけぇ!」

 

「ぎえーーっ!」

 

 事態がここまで急展開を遂げれば、もはや律子に一切の情けはなかった。そのせいか、最初はゆるめであったツルによる締め付けが、だんだんとその力量を強めていった。それから最後には、ついに五人の首を窒息寸前にさせるまで発展。

 

「せ、先輩……それ以上やったら、たいがいぶりに死んじまいますばってん……☢」

 

 ここで後輩の秋恵が止めに入らなければ、先輩の律子は本当に、越えてはいけない一線を、見事に越えていたのかも。

 

 ちなみに秋恵は、律子のこの不思議なるパワーを、とっくに先刻ご承知のようである。先輩の異常な大暴れを瞳の前にして、特に驚いている様子もなしなので。

 

「そ、そうたいね……やっぱやり過ぎちゃったばいねぇ☻」

 

 後輩の言葉で、ようやく律子も我を取り戻した感じ。込めていた力をゆるめると、彼女の体から伸びている薔薇のツルがスルスルスルッと見事に縮んで、着ている服の中へと収容されていった。

 

 まるでボタンひとつで電気掃除機に吸い込まれる、延長コードみたいなもの(念のため、剣遊記世界には存在しない)。あっと言う間に緑のツルは、周囲に一本も見当たらなくなった。

 

 でもってあとの現場に残されたモノ。それは裏通りの路上であえなく気絶をしている、自称なんとか協会の五人の男どもの、無様極まる醜態だけ。最後ギュッとしたきついひと締めが、彼らにとっての決定的ダメージとなったようである。


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