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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (7)

 それもそのはず、律子の着ている衣服(グリーンを基調とした軽めのコート)のエリの部分、さらには背中側と両手の袖口から奇怪極まるモノが、シュシュシュシュシューーッと飛び出したからだ。

 

 しかもなんと、驚くべき話。それらは緑色をした、植物のツル状の物体だった。それらが一斉に、律子の体から放射されたのだ。

 

 ついでに遅まきながら、本日の穴生律子の服装の、さらなる解説。律子はふだんからその職業柄、動きやすい上着とズボンを着用。従って本日も例には漏れず、街中でのショッピングを楽しんでいるようでいて、実に行動的、見ようによっては、男性的な格好をしていた。

 

 おまけだけど秋恵のほうも、だいたい似たような服装。ただし律子のほうはなぜか、エリ元や両手首の袖の所が、大きく開いた感じの特別注文のような服となっていた。

 

 つまり口が広め。

 

 その手首の口元を男たちに向け、律子は両手を前に突き出すようなポーズを取った。そこからまるで、ヘビみたいな俊敏な動きになって、植物のツルがそでの奥から飛び出したわけなのだ。これで総勢五人の男たちの肝が、心底からビビらないはずがなかった。

 

「わわぁーーっ! おれに絡みついてくるよぉーーっ!」

 

「痛えっ! このヒモ、トゲがありやがるぅーーっ!」

 

「ひぃーーっ! チクチクするぅーーっ!」

 

 しかも男たちの叫びどおり、巻きついたヒモ――植物のツルにはトゲトゲがしっかりと備わっている状態だから、これはたまらない。おまけにどんなに力を込めて引っ張っても、ツルはまったくちぎれないし、さらにビクともしなかった。

 

 賢明なる読者諸君は、この時点でもう、律子の正体にお気づきであろう。また話を進めないといけないので、手っ取り早く説明を繰り返す。つまりこの植物のツルはすべて、律子の体から直接伸びているモノ――体の一部なのである。

 

 過去、某悪徳司教から呪いをかけられた彼女。その呪いは律子の体に植物の――それも薔薇の花の特性を抱かせる結果となったわけ。

 

 だけど、そこはもともとからであった律子の薔薇の花大好きが幸い(?)。今やこの不幸な境遇に、すっかり順応。見事呪いとの共存(?)を果たして、今日に至っているわけなのだ。そのため緑色の髪(これも表現が遅れたけれど、律子は瞳も緑色)。実はこれも、呪いの影響による後遺症。魔術で着色されている状態なのだ。

 

 でもって現在、薔薇の力を我が物とし、立派な武器(?)になって役に立たせているわけ。

 

 人間生きていれば、いつか必ず良いときがくる――の好例だと言ってもいいかな?


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