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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (4)

「先輩っ! こん人たちきっと、うったちゃ誘拐ばして、香港あたりに売っちゃうんやなかですか! そがんなったら、あたし怖かぁ〜〜っ☠☠」

 

「あっちゃあ〜〜っ☂」

 

 ここで秋恵がいきなりブッ飛んだ想像図を描いて、先輩――律子に、多少の頭痛を感じさせてくれた。

 

(この娘{こ}……盗賊志望でわたしに弟子入り志願ばしたとはよかばってん……世の中んこつ、なんやかや勘違いばしとうばい☃)

 

 盗賊志望者――つまり新人であるのだから、そのような点は、言わば大目に見てあげるべきであろう。だが、どこでそのような無駄知識を仕入れたかは不明だが、想像の突飛性にはいささか、過ぎた面が大いに有り有りの模様。

 

 しかし先輩として、ここはフォローをしないわけにも行かないだろう。

 

「ま、まあ、昔はようそげな話もあったとばってん、でも、今は時代が違うとよ♠♣」

 

「違うって……どがん風にですかぁ?」

 

「ええっとぉ……それはやねぇ……☁」

 

 こんな調子でどんどん突っ込まれると、律子自身も返答に困る感じ。

 

 今時香港あたりでの人身売買も無いだろう。まあぶっちゃげて言えば、変な勧誘で高価なインチキ物品(例 不老長寿のためと言いながら、本当は原価格安の壺。貧相な素材で出来ている、見かけだけは綺麗な印鑑などなど)を買わされる顛末が関の山ってところか。

 

 実際律子もそんな感じで、秋恵に説明しようと思っていた。だけどその前に、一応周囲をキョロキョロと見回してみた。やはりここは予想をしたとおり――また定番どおり、人通りが少なくてとても寂しい、裏通りの路地のド真ん中。ふたり(律子と秋恵)でひそひそと話をしていた間に、足だけはそれこそすなおにも、男たちに付き従っていたようだ。

 

 これでは彼女たちふたりで助けの悲鳴を少々上げても、そう簡単に救いの手が来てくれるとは思えなかった。

 

 いやそれ以前に、都会の無関心が、律子たちをとっくに見捨てているかもしれないのだ。


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