『剣遊記 番外編Y』 第一章 女盗賊への弟子入り志願。 (3) どうやら繁華街のあちらこちらに、やはり同じような勧誘をしていた仲間がいたみたいだ。
「おやおや、どういたしましたかな?」
「なるほど困ったお客様のようですなぁ☻」
ぞろぞろと集合してきた者たちは、初めの勧誘男と同じ服装(黄色いアロハシャツ。ただし金髪は、さすがに初めの野郎だけ)。また年代も、同じ感じの男どもが、全部で四人現われた。
これで初めの男と合わせて、総勢で五人。だけど怪しそうな団体であるからには、そこら辺のキレている少年たちよりも、遥かに性質が危険そうな雰囲気があった。そんな状態であるからして、連れの女の子は、もう極限のパニック状態となっていた。
「ど、どがんします、先輩! うったちゃ無事じゃいじくそ済まんとでしょうか!」
律子は思った。
(まあ、こん世の中、裏にやおない世界があるっちゅうのは頭で理解しとうばってん、こげんして現実にお目にすんのは、やっぱ滅多に経験せんこったいねぇ☢)
しかしここは、世の中の暗部を憂{うれ}いている場合ではない。そこで律子は、続けて強気で言葉を返してやった。女の子向けに。
「大丈夫やけん✌ あなたがさっき言うたとおり、さっさと行くばいね、秋恵{あきえ}ちゃん✈ こげな連中はシカトすんのがいっちゃんよかやけ⛔」
表面に恐れを微塵も見せないようにして、律子は連れの女の子――秋恵の右手を今度は逆に引く立場となって、とにかく足早に、この場から立ち去ろうとした。
「は、はい……先輩……☁」
秋恵の顔に、少しだけ安堵の色が見えていた。
ところがどっこい、やはり世の中、そうは簡単に行かなかった。総勢五人の内のふたりが、律子と秋恵の前で、通せんぼのように立ちふさがってくれたのだ。
「まあ、そう急がなくてもいいでしょ☻」
「ちょっと、そこで話し合おうよ☠」
口では丁寧な御託を並べていた。だが、このふたりが右手で指差した先である話し合いとやらの場所は、いかにも人通りが少なそうな、建物と建物の間のせまい路地だった。しかもその奥がどのような感じになっているかは、だいたいの予想が付くってものだ。
せめて喫茶店に誘うくらいの気遣いばできんとやろっか――などと、口には出さないようにして、律子は小さくつぶやいた。それから続いて、今度は声に出してやった。
「しょんなかねぇ☢ ここで騒ぎばやらかしたら、実際に困るとはあんたらやろ♐」
一応彼らにも彼らなりの事情がありそうだ。ここはすなおな姿勢で、律子は勧誘男たちに付き従うようにした。
(ほんなこつ言うたらわたしんほうが、もっと困ることになるばってんねぇ〜〜☢☻) (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |