前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (15)

「大谷秋恵ちゃんっ、て言うたばいねぇ☝」

 

「はいっ!」

 

 彼女の緊張感は、今もって氷解していない模様。

 

「やけん、そげん固とうならんでええばい☻ これからは親しみば込めて、『秋恵ちゃん』って言うけね☺」

 

「は、はい! そがん風に呼んでくんしゃい!」

 

 律子はなんとかして、秋恵の緊張を解きほぐそうと試みた。それでもコチコチに固くなっている彼女の体は、そう簡単には治らなかった。

 

 ふぅ……っと、ため息ひとつの律子。

 

「ま、まあ、先は長かとやけ、時間ばかけてゆっくりお互い理解し合えばええったい✍ それよかあなた……ホムンクルスって、今店長が言いよったばいねぇ☞ 実はわたしかてそうなんよ✌」

 

「ええっ! それってほんなこつへ?!」

 

 律子の大胆発言を耳に入れたであろう、そのとたんだった。秋恵の琥珀{こはく}色をした瞳が、一気に大きく開かれた。

 

 新人後輩の瞳が輝いた状態を見て、律子は内心で、してやったりとほくそ笑んだ。

 

「ええ、もっともわたしん場合、元はふつうの人間やったとやけど、魔術で呪いばかけられて薔薇の花と合体しちゃったとよ✊ で、この緑の髪と目玉が、その証明っちゅうところやろっか♐ そやけどわたしって、もともとから薔薇ん花ば大好きやったもんやけ、今のこの体に、すっかり順応しとうとばい♡ やけんあとで、あなたにもわたしん力ば見せてあげるばいね☀」

 

「は、はい! ぜひごつかほど見せてほしかです!」

 

 秋恵の瞳のキラキラが、さらにその輝きを増していた。

 

 ホムンクルスの彼女――秋恵がきょうまでいったい、どのような育ち方をしてきたのか。それはこれから知るようになるだろう。とにかくなんらかのかたちで、きょうまでつらい目を見てきたであろう成り行きは、律子にもだいたいの予想がつく感じでいた。

 

 社会の一部では、まだまだ少数派の人たちを虐める行為を楽しんでいる困った連中が、いろいろと存在する現状なのだ。だからこそ自分自身の素性を明かす行ないによって、律子は秋恵の心を安心へと導くように試みたのだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system