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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (14)

「ホムンクルス……ってことはぁ、この秋恵ちゃんはそのぉ……なんか特別な力でも持っとうとですか?」

 

 自分の身の上が身の上なだけに、律子の質問の仕方も、ややであるが湿り気味になっていた。また、店長であり彼女たちの元締め兼雇い主的存在である黒崎も、すでに薔薇の女盗賊の事情は承知済みでいた。

 

「まあ、くわしいことは個人の理由に関わってくることだから、そこのところは僕も深く尋ねてにゃーがや。だけど、おいおいわかってくることだろうとは思うがね。僕はなにか事情がありそうだからと言って、興味本位でそれを知ろうとは思わんがね」

 

 先ほどまでの快活とした口調とは違って、今度は急に言葉を濁{にご}している感じの黒崎であった。それでも前向きな姿勢だけは、初めとほとんど変わっていなかった。

 

「それよりも、この秋恵君は子供のころから盗賊に憧れを感じていたそうだがね。そこで個人教授として君……つまり律子君が、これにふさわしいと思って紹介したんだがや。これは僕からの頼みでもあるから、これから仲良くやってほしいがや」

 

「は、はい……店長がそこまでおっしゃるとでしたら、わたしかて深くは追及なんかせんとやけ……⛔」

 

 けっきょく店長っち、いつかて肝心なことば答えんで、わたしらに『あとは任せるがね』なんよねぇ――などと、これも顔にも口にも出さないようにして、律子は黒崎の依頼を承諾した。

 

「ありがとう。それじゃ僕は他にもお客さんを待たせてるから、これで」

 

 まさに盗賊志願の新人――秋恵を、律子に全面的に託した格好――または押し付けた感じ。黒崎がテーブルから、さっさと立ち去った。

 

 その背中を見つめつつ、律子はこっそりと独り言を繰り返した。

 

(あげん言いようとばってん、店長はわたしがワーローズになっとうこと、いつん間にか知っとったんよねぇ♐ これって別にわたしが教えたわけやなかとやけど、むしろ店長が知っとうこと知ったときこそ、わたしんほうがえずいほど驚いたもんやけねぇ☢ これってもしかして、秋恵ちゃんの正体かて、実はとっくに知っとったりしてね☻?)

 

 自分自身でペラペラとバラしたわけでもないのに、いつの間にやら本当の話が、全体に広がっている現実。現代の情報伝達力には、まさに驚くべき威力がある。だから律子がワーローズだという話。これはすでに未来亭はおろか、北九州の市民ならば、大概の者たちが知っている話なのだ。

 

 さらにこれまたおかしな話であるが、律子の亭主である秀正だけは、いまだにその事実に気づいていなかったりもする。

 

(まっ、いつかは正直に言うとかんといけんとばってんねぇ〜〜☹ そやかてヒデの鈍感ぶりかて、正直わたしんほうがいっちゃんビックリしとうとばい⚠⛔)

 

 実際毎日悩みつつも、秀正に衝撃を与えたくもなかった。そのためけっきょく、きょうのきょうまで、真実を言いそびれているのだ。それだけに今瞳の前にいる新人盗賊のホムンクルス――秋恵ちゃんの登場が、どうしても気に懸かってしまう心境――とも言えるのではないだろうか。


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