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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (13)

「盗賊志望ですか?」

 

 律子は改めて、大谷秋恵と紹介された少女の全身を、上から下まで眺め回してみた。

 

 今の季節、各地で新人の戦士や魔術師たちが修行や学業を終え、街へ就職活動に精を出しているところ。従って盗賊の新顔も、それ自体は珍しい話でもなんでもなかった。それになるほど、秋恵とやらの服装は、律子自身も現在着用している盗賊愛用型と同じタイプの、白いTシャツ(律子は緑っぽい)にズボンはGパン。おまけに首にはTシャツと同じ、無地の白いタオルを巻いているところが、いかにもこの職業に憧れている――の感がありありであった。

 

(……そげん言うたらうちん亭主かて、頭にタオルば巻くの、よう好きでやりようばいねぇ♂ なんでも発掘現場っちゅうのは、どこでも埃が多かっちゅうてからに⛑)

 

 ついでながら律子は、タオルを巻くよりも、長い髪をうしろに束ねる派。タオルは腰のベルトに結んでいた。

 

 それから初対面の緊張感丸出しで、秋恵が律子にやや引きつり気味の顔を向け、頭を深々と下げてのご挨拶。

 

「は、初めまして……お、お、大谷秋恵と言います……ど、どうかよ、よろしゅうお願いいたします……♋」

 

 律子と黒崎は着席をしているのに、彼女だけはいまだ直立不動なところが、逆に新鮮。むしろ初々しさすらも感じさせてくれた。

 

「ふぅ〜ん、まあこちらもよろしゅう頼むばい☺ でもわたしの修行かて、ちと厳しいかもねぇ☻」

 

 律子も本気で意地悪く言っているわけではないが、秋恵のほうは、やはりそのまま真面目に受けていた。

 

「は、はい! 覚悟ばしとります!」

 

 これにてますます、緊張で身を固くする有様だった。

 

「はははっ。確かに律子君は、女猛者で名高いがや。まあ、お手柔らかに頼むきゃーよ」

 

 黒崎がそんな彼女たちふたりを、軽い笑いで眺めていた。それからさらに、もうひと言。

 

「ところでもうひとつ、律子君にきちんと言うておかにゃーならにゃーことがあるんだがね」

 

「もうひとつ……ですけ?」

 

 なんだかいかにも重大そうな黒崎の言葉に、律子は眉間にシワが寄る気分となった。過去、店長がこのような顔になれば、必ず面倒ごとを押し付けられる成り行きだからである。しかしそれでも、黒崎の笑顔自体は、なんら変わりはしなかった。

 

「この大谷秋恵君は、実はふつうの人ではにゃーがや。彼女自身が僕に教えてくれたんだが、それによるとホムンクルス{魔造人間}ということらしいがね」

 

「ホムンクルス……ですか?」

 

 律子は自分の緑色をした瞳に、『?』マークが浮かび上がる気持ちになった。

 

 ホムンクルス自体の話であれば、律子も基礎知識ぐらいは知っていた。なにしろ自分自身の体がある意味、魔術の呪いによって、変貌させられた状態であるからして。

 

 しかし、少なくとも産まれたときはふつうの人間だった律子とは違って、ホムンクルスはその出生自体が、言わば魔術の産物なのだ。従って境遇は自分自身と同じ――とはやはり言えない感じが、律子はしていた。


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