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『剣遊記 番外編Y』

第一章  女盗賊への弟子入り志願。

     (11)

 そんな(自称)薔薇少女に、秋恵がうしろからのひと言。

 

「先輩……もういっちょよかですか? さっき思わず言いそうになったとばってん、なんとのうノドん奥で止まったことなんですけどぉ……☁」

 

「なんね? 秋恵ちゃん☺」

 

 律子は笑顔で振り向いてやった。しかしこの笑みは、すぐに後悔へと変わる顛末となった。なぜならそれは、秋恵が先ほど言いたそうにしていたらしい、ある種の『ツッコミ』であったから。さらに枕詞{まくらことば}を付け加えれば、『よけいなおしゃべり』とも言えるシロモノでもあったのだ。

 

「あなたもけっこう、質問魔ばいねぇ☻⛐」

 

 律子のきつい言葉どおり、秋恵は『遠慮』を知らなかった。

 

「はい、あたしもそればおしゃっぱっち自覚しちょります★ それでもういっちょなんですけどぉ……先輩はもう結婚ばされて、お子さんまでおられるとやにぃ……『薔薇少女』なんち自分ば言うの、なんかこそばい感じしませんけ? そのぉ……なんちゅうか、適齢期ば過ぎちょうっち言うとやろっかぁ……☁」

 

「秋恵ちゃん、あなたねぇ!」

 

 次の瞬間、律子の体から再び、あの緑のツルがシュルルルッと飛び出した。

 

 後輩――秋恵もまた、勧誘男たちと同様。言ってはいけないセリフを、口から洩らしたわけなのだ。

 

「きゃっ♥ 先輩、失礼しましたぁ☺」

 

 だけど先輩――律子をカチンとはさせたものの、やはり根は明るい性格なのだろう。秋恵が可愛らしい舌👅をペロリと出しながら、笑顔でこの場から駆け出した。

 

 でも後輩を追い駆ける律子としては、胸の内がなんだか、とても複雑な心境でいた。

 

「なんちゅうやんちゃな娘たいねぇ……ほんなこつあれで、わたしとおんなじような境遇の持ち主なんやろっかぁ?」


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