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『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (8)

 洞窟の奥の行き止まりには、けっこう豪華な祭壇(まるで教会やお寺にあるような物)が用意されていた。その真ん中に、大人がひと抱えをするような大きな岩がデンと鎮座して、例の魔剣――『チェリー』とやらが見事な垂直となって突き刺さっていた。

 

 だが、確かに大岩に刺さるほどである剣の硬度は、まさに凄過ぎる逸品といえた。ところが逆に、剣全体から受ける印象は、名称のとおりにどこか女性的で、なんだか心細いようにも見えていた。

 

(ほ、ほんまにこの剣……で、ええんじゃろうか?)

 

 噂の魔剣『チェリー』を初めて拝見した、板堰の第一印象は、だいたいこのような感じであった。特に剣の柄の部分など、女性が好みそうな金銀や宝飾品で彩られ、おまけに祭壇の上の壁(岩盤に紙が貼ってあるだけ)には、実に大袈裟そうな文章までが、まるでお墨付きのように添えられていた。

 

 『魔剣チェリーを抜くことが出来た者。真の勇者としてここに認めるもの也』

 

(偉そうな割にゃあ、大したこと書いとらせんのぉ☹)

 

 生まれつき反骨精神が強いせいか、それとも権威に対する拒絶反応か、板堰は昔から、このような肩書きの部類が大嫌いだった。さらにその嫌悪感の火に油を注ぐかのごとく、祭壇に右横に立って控える役人――これがなんと、上半身が裸スタイルで、下は黒のタイツ姿でいる、大男のような二本角のミノタウロス{牛頭人}。しかもこれまたの繰り返し。ミノタウロスのふてぶてしそうな態度も、板堰は思いっきり的に気に入らなかった。

 

「さっさと始めんかい! ぶもおおっ!」

 

 そのミノタウロスの体格が、これまたまた態度に見合うような筋骨隆々。この威圧感に今までの挑戦者が恐れを為してさっさと退散したおかげで、きょうまでなんのトラブルもなく、連綿と観光が続けられてきたのであろうか。

 

 だからと言って、ここで板堰もケンカを売るつもりはなかった。とにかくミノタウロスから言われたとおりにして、板堰は魔剣の柄を、両手でギュッと握り締めた。

 

 実はこの時点においてもまだ、板堰の心中には迷いがあった。

 

(ほんま、これでええんかのぉ?)


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