前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (5)

「こ、こねーなとこが、あんたが言うとる魔剣の場所なんけー?」

 

 かなりにとまどい気味模様となった板堰に、二島がサラッとした顔をして応じてくれた。

 

「然様でんがな☆ なにしろ明日香は古墳の観光で潤{うるお}ってる村でございますからなぁ♡」

 

 それからふたりして、矢印の標識が差す先に、目を移し変えてみた。するとその道路に沿って、多くの男たちが行列を作って並んでいた。もちろんその男たちの中で最も多いスタイルが、鎧を着た戦士姿の者たちだった。

 

 彼らも恐らく板堰と同様、伝説の魔剣を我が物にしようと、明日香の地を訪れたのであろう。中には当然、物見遊山な一般人も混じっているだろうが、戦士とわかる者は皆、実に真剣そうな表情で、辛抱強く長い順番待ちに耐えていた。

 

「ざっとご拝見をしたところ、およそ五百人ってとこでんなぁ♡」

 

 見たまんまを平然と述べる二島に、板堰はもはや、腹を立てる気力さえも失った。

 

「わ、わしもここに、ちーと(岡山弁で『ちょっと』)じゃのうて並ぶんけぇ?」

 

 半分呆然の思いである板堰に、やはり二島が平然と応じてくれた。

 

「そうでんなぁ☻ いくら道場破りが売りモンでありはっても、ここは真面目にお並びするしかありまへんなぁ⛑ もちろんこの私も、お付き合いいたしまんがな♡」

 

「……わ、わかったけー☠」

 

 板堰は自分でも驚くほどの従順ぶりで、二島の進言に従った。

 

 気に入らなかった事情があったとはいえ、かってはおのれの師匠であった男を倒したほどの猛者である。それがこの場では、借りてきた小猫のようにおとなしくなる事態。これは並んでいる人数の多さに、思わず気負い負けをした――とでも言うべきだろうか。

 

 とにかく、この場における無益な争いは、極力避けるべき。板堰は二島といっしょになって、行列の最後部につくようにした。そこで、並んでから気がついた。

 

「ふん☠ やっぱ来たんじゃのぉ☠」

 

「お、おまえは!」

 

 なんと板堰と二島のすぐ前に並んでいる者は、つい最近見たばかりの顔。麻司岩、脛駆といっしょにいるはずの、魔術師の男だった。その魔術師が鼻で笑うような目をして、板堰と二島をにらみ据えてくれた。

 

「そこのエルフが魔剣のこと口にしたさかい、まさかと思うて街道を逆戻りしたら、案の定やったなぁ♡」

 

「おっと、これは私としたことが⚠ 大事なことをペラペラ言ってしまったようでんなぁ♥」

 

 今さら遅いが、魔術師からの指摘を受け、二島が『あかん!』とばかりに(それほど反省の顔でもないが)、自分の口を右手でふさいだ。もっともそんな二島には構わず、板堰は魔術師に問い返した。

 

「……おまえがここにおるっちゅうことは、麻司岩と脛駆も明日香に来とうってことじゃのう☠ ふたりはどこにおるんけー?」

 

「麻司岩と脛駆は面倒な行列をわいに押し付けて、自分たちは街で遊んどるで☢ ふたりとも大した戦士やで、ほんま☻ まあ、ここで待っとったらいずれふたりが戻って来よるさかい、おとなしゅう待っとったらええがな⛔」

 

「ちっ!」

 

 魔術師の高慢そうな物言いに、すっかり気分を害した板堰は、腹立ちまぎれで道にペッとツバを吐いた。

 

 こんな明日香くんだりまで来て、一番嫌な連中と顔を合わせないといけないわけである。それを考えると並ぶ行列の長さも手伝って、板堰の胸は今にも爆発しそうな心境となった。

 

 しかし幸い。行列は思っていたよりも順調に――なおかつ迅速に前へと進んでくれた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system