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『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (4)

「今しがたおらんだとおりじゃ☹ わしは岡山市にある……いやあった、半倉道場の門下生やった男じゃった……☁」

 

 過去形を特に強調して、板堰は自身の身の上話を二島に話してやった。これは、この孤高な戦士の性格に照らし合わせて考えてみれば、非常に珍しい光景でもあった。ちなみにここは、明日香へと向かう街道の途上。

 

「ほほう、それがなぜ、師匠を張り倒すなどと、大それた真似をなされたんでっか?」

 

 聞き手に回ると、二島のほうもしゃべりがどうしてか、控えめでいた。それはとにかく、吟遊詩人は興味しんしん。滅多にないであろう戦士の告白に、長い耳を殊勝にも傾けていた。

 

「岡山の半倉道場っちゅうたら、実は入門者が長続きせんことでも有名じゃった☛ そげーに修行がでーれー厳しいもんと考えて、わしゃあ門下生のひとりに加えてもろうたんじゃが、入ってみるとなんのことはねー☠ 道場主の半倉と取り巻きの先輩ども……さっきのふたりじゃが、そいつらがグルになって、後輩いびりを楽しんでやがるだけじゃけー♨ 碌に剣を教えもせんで、やれ稽古場の掃除がヘタじゃからやり直せじゃの飯が不味いじゃの♨ あんごーなやっちもねーことばっかりじゃったのぉ♨ 中でも金銭でのいびりは、今でも胸糞が悪りーほど一番嫌いじゃったわ……要するにタカリじゃったんじゃが☠」

 

「なるほどぉ、あなた様のような御方の口から、金銭的な恨み言が出るとはこれまた意外やったですが、それも人生のスタートにはようあることでございましょう☂ それよりもこれは、俗によく聞く、『おれはエラい☻』に凝り固まった勘違い人種による、ゆがんだ上下関係でございますな☝ これで理由はなんとはなしにようわかるような気はしはるんやけど、やはり師匠を張り倒すほどの行為は、よっぽどの覚悟ではないでっしゃろっか? どう言う張り倒し方をなされたかは、この際不問にいたしまするが♥」

 

 などと質問を繰り返しながらで、二島は板堰の意外な心情吐露にも感心していた。道場破り専門の戦士には、これでけっこう、心の奥底に深く溜まっているモノがあるようだ。それからさらに、板堰は苦い過去を振り返るかのようにして、静々と二島に返答した。

 

「とにかく入門してたったの一週間で、わしゃあ完全に幻滅したんじゃ☢ それからええ場所を見つけては近くの山に入って、自分で勝手に剣の練習しとったら、それを麻司岩どもがあざとく見つけて、まさに言いがかりの嵐じゃったけのー☃ 無断で剣の練習したとかで、半倉自らわしを成敗しようとしたら、わしがでーれーあっさり返り討ちにしちまったんじゃ☀ 剣といっしょに、愛用のナックルダスターでアゴをぶち喰らわせてのぉ★ わしゃあいつん間にか、半倉より強うなっとったんじゃなぁ☻ もっともそんとき半倉は、酒を飲んで酔っ払っとったんじゃが⛐ とにかくわしは、そん勢いで道場からわやくそな気持ちで飛び出したっちゅうわけじゃ✈ まあ、わしが戦士にあるまじきモンとわかったわけでもあったがのぉ……☻」

 

「なるほどぉ、聞かないつもりやった張り倒し方まで教えてもらったわけなんですが、あなた様も私に負けず劣らず、いろいろなご苦労がお有りなんでんなぁ☘ おっと、お話をお聞きしているうちに、どうやら私たちは目的の場所に到着したようでございまんがな♡」

 

「なんじゃと?」

 

 不覚にも、自分自身の身の上話に夢中となっていたようだ。自分がどれだけ歩いていたかも、ほとんど記憶になし。板堰はそんな不思議な気持ちで、ふと正面を見上げてみた。そこには大きな看板が立てられていた。

 

 『ようこそ古墳の村♡ 明日香の里へ☺』と書かれている大看板が。

 

 さらにその左横には、矢印付きの案内看板も立っていた。

 

 『この先、魔剣の岩→』


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