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『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (3)

「これはまた、意外でかつ驚がく的な事実でございまんなぁ★」

 

 思いもよらなかった板堰の怒声は、ふたりの先輩よりも、むしろ二島のほうを驚かせたようだった。

 

「現在道場破りで名を馳せておられるあなた様に、よもやそのような過去がお有りでしたとはなぁ……これはのちほどでもけっこうですので、ぜひともそのお話を私にお聞かせ願いたいものでんがな★」

 

「なんじゃ、こいつは?」

 

 初めは相手になど、する気もなかったであろう。しかし板堰の右横にいるエルフの吟遊詩人が大いに感心して目を光らせている様子を見て、麻司岩がいかがわしいモノを感じるような目付きになった。

 

 ところが二島は、このように他人から不思議がられると、逆にとてもうれしくなる、我ながら変わった性分。すぐに板堰の先輩諸氏に顔を向け、ここでもやはりの仰々しい挨拶を行なった。

 

「これはこれは自己紹介が遅れまして、ここに非礼をお詫び申し上げまんがな★ かく言うこの私は御覧のとおりの、吟遊詩人を生業とするエルフの二島康幸と申す者でございます☺ また吟遊詩人ならではの商売道具といえる物は、この私の背中にあります竪琴ひとつなのでございまするが、これこそたったひとつの無二の友として、諸国を自由気ままに放浪をさせていただいている身分なのでございまんのや☀ 実は今回訳あって、こちらにおわす板堰守殿とともに幻の魔剣を求めて、これより明日香の地を訪れる途中なのでございまするが……」

 

「もうええんじゃ! 行くで!」

 

「おっと、この辺りまででよろしいんでっか?」

 

 このまま放っておけば、また半日以上を費やす長話を始めるに違いなし。二島の右手を強引に両手で引いて、板堰は脇目も振らず、街道をさっさと先へと進んだ。

 

 これ以上、自分の過去を知る昔の嫌な連中の顔とは、一秒でも早く『おさらば✋』したい。それも急ぐ理由のひとつ。いや、最も大きなモノだった。

 

「お、おい! 板堰っ!」

 

 かっての後輩から袖にされた格好。ふたりの元先輩戦士はここで腹を立てるよりも、むしろ呆気に取られたような面持ちで、奈良方面に向かうふたり(板堰と二島)の背中をジッと見つめていた。だがこのとき、今までひと言もしゃべらなかった黒衣の魔術師が、ひとりでポツリとつぶやいていた。

 

「明日香で魔剣やてぇ……あいつらもまさか、あれに挑戦するつもりやねんな☠」


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