『剣遊記番外編U』 第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡ (18) 板堰の考える二島に尋ねたい質問とは、だいたい次のような内容である。
古来より、魔神(女性版はジニー。男性版はジンという)は悪魔{デビル}などと肩を並べる、デーモン{魔物}の大御所とされている。
もっとも、それらの伝承は今から何百年もの昔。中世紀以前の話ともなっていた。
それが現在では人間の魔術文明の進歩に伴い、魔神も悪魔もそのほとんどが根絶をされ、伝説と地方の言い伝えに、その痕跡を残す程度であった。
しかし、だからと言って千恵利が魔物の末裔であったとしても、彼女はデーモンの印象からは程遠く、むしろその威厳など、カケラほどにも感じなかった。
これはもしかして、自称魔神の看板に、偽りあり――なのだろうか。
「そうでんなぁ〜〜☁」
この板堰の疑問には、博識で名高いエルフ一族の二島でさえ、さすがに首をひねっていた。
「私といたしましては、古{いにしえ}の魔術師が人造の魔神を創り上げた伝承に基づいて推論を述べるしかないのでございまするが……ここはひとつ、彼女自身から出生の秘密を語っていただく必要があるやもしれまへんなぁ……☂」
「そんとおりや! あたしは大昔の人間の魔術師が創ったホムンクルス・ジニー{人造魔神}やねんな☆」
ここでふたりの殿方(板堰と二島)の前に、当の千恵利が裸のままで堂々と参上した。
「うわあっ! お、おまえ、その!」
「おおっ! これは見事な!」
それこそ一番大事な個所をまったく隠そうともせず、完全に巨大な公開状態。千恵利は実際に魔神のジニーであるのだから、人の常識が一切当てはまらないのだろうか。
だがそれにしても、大胆さがかなり過剰気味の感じでいた。
「ふたりとも、なんをそんなん慌てとんねん?」
千恵利が全裸のままで平然と、足元の小岩に腰を下ろした。それから殿方ふたりの会話に、ごくふつうの態度で参加した。
「さっきの話の続きなんやけどなぁ☻」
「お、おまえ……早ようべべ着てくれんかのぉ☠」
板堰は真っ赤になっているであろう自分の顔を反対方向に変え――つまり千恵利には背中を向け、恥ずかしげに早めの着衣を訴えた。ところがそれでも、千恵利はシレッとしたものだった。
「それより、あたしは確かにホムンクルス・ジニーやねん☆ もう名前も忘れたんやけど、昔の偉い魔術師はんがあたしみたいなんを仰山創って、おまけに剣の姿に変えてくれはったんよねぇ〜〜☝」
「ほほう、するとあなたの他にも同じお仲間が仰山おられはる、と言うわけでございますな♠」
長寿の分だけ、板堰よりは女性の裸に免疫があるらしい。二島がなにもしゃべられなくなった板堰に代わって、千恵利の聞き役に回った。
もちろんさすがに、両目を閉じてでの会話であった。それでも板堰ほどには、顔が赤面していない(もともと色白ではあるが)。これもエルフならではの、亀の甲より年の功なのであろうか。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |