『剣遊記番外編U』 第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡ (14) 洞窟の入り口では、順番待ちの戦士たちが騒ぎを始めていた。
「おい! 前のやつら、長過ぎなんじゃねえか♨」
「いつまで待たす気なんやぁ☠」
「おんどれ、なんとか言わんけぇーーっ♨」
ところがこれだけ文句が出てきても、対応する役人の顔の涼しそうなこと。
「今しばらく待ってんか☻ どうやら前の方のあきらめが悪いようやさかいね⛱」
要するに、遅れている原因は自分の責任やないで――と言いたいわけ。実際、この程度のトラブルは日常茶飯事。なのでこの役人にはそれなりに、慣れというモノができあがっているのだろう。
ところが――であった。
「ちょっとそこどいてくれまへんかぁーーっ♪」
「へっ?」
いきなり洞窟の奥から、とぼけたような叫び声。これにはさすがに能面な役人も、つい何事かと振り返ってしまう。すると、先ほど挑戦に行ったばかりである戦士と吟遊詩人のふたり組が、洞窟の中から息せき切って走りくるではないか。
「どけどけどけぇーーっ!」
「な、な、な、なんがあったんやぁーーっ!?」
これに驚いて度肝を抜かれた役人が、お間抜けにも走る理由をふたりに尋ねようとした。もちろん二島にも板堰にも、それに答える余裕はなかった。
「そこをどくんじゃあーーっ!」
「はい!」
戦士の気迫に満ちた絶叫に押され、当の役人を始め、行列に並んでいる次の挑戦者の面々が、ザザッと左右に分かれて、ふたりに道を開けてくれた。
いわゆる『モーゼの十戒』状態。
おかげで二島と板堰はなんの障害もなしに、魔剣の洞窟からの脱出に成功したわけ。無論そのあとから斧を握った同僚のミノタウロスも飛び出して、入り口の役人が今度こそ何事かを尋ねることができた。
「い、いったい、なんがあったんや?」
ミノタウロスが興奮混じりで答えた。
「ぶもーーっ! 今んやつらが剣を抜きやがったんやぁーーっ! これでこの村の観光の目玉がのうなってしもうたぁーーっ☠ ぶもおおおおおおっ!」
「な、なんやてぇーーっ!?」
人間とミノタウロスの役人ふたりが、同じ悲鳴を張り上げて、ビシッと抱き合った(男同士)。さらにこのあと、散々待ちぼうけを喰らわされていた戦士たちが、これで暴動寸前にまで到った経緯は、この際一切無視をする。他愛のない(?)騒動など、その後の展開には、まったく関係がない話なので。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |