『剣遊記番外編U』 第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡ (13) 本来ならば、これにて万事めでたしめでたし――のはずであった。
「ま……待たんかぁーーい!」
ところが目の前で起きた奇想天外な出来事を、今まで黙って傍観しているだけだった祭壇守り人であるミノタウロスが、いきなり大声で吼え立てた。
今になってようやく、自分の出番を見つけたかのように。
「ぶもおおおおおっ! そ、その外人の女子{おなご}はん……い、いや魔剣やった女は、村のでらいな所有物なんやでぇ! そやさかい、勝手に持ち出すことは許さんのやぁ! もぉーーっ♨」
「おや? これはまた異なことをおっしゃられますなぁ♨」
ただちに二島が反撃を開始した。
「岩に突き刺さった剣は、それを抜いた者に所有をする資格と権利がありはる✍ これはこの村だけやあらへん、日本全国にある伝説剣に関する重要かつ不動な掟{おきて}ではありまへんのかいな? それをこの場で引っ繰り返そうなどと、いったいどなたはんが、そのように主張できはるんですかな?」
さらに当の魔剣(?)である――いや、あったと言うべきか――千恵利も黙ってはいなかった。彼女も猛然と、ミノタウロスに喰ってかかった。
「このおじさんの言いはるとおりやで! あんただってしょっちゅう、偉そうに言いよったやないか! 『この剣を抜けたら、いつでも持って帰ってええんやで♡ もお♡』ってな! あたしはいつもここで、耳にタコができるくらいに聞きよったんやからなぁ!」
「う……ぐ、ぐ……ももももぉ☠」
ふたり(二島と千恵利)から完全にやり込められ、ミノタウロスのほうが進退窮まっていた。だがここで、彼がなぜ魔剣の番人として選ばれていたのか。その理由が明らかとなった。
「ぶもおおおーーっ! や、やかぁーーしぃーーわぁーーい! とにかく剣を持ち出すことは絶対認めんのやぁ! ぶもおおおっ!」
突然声高く吼え立てて、ミノタウロスが祭壇の裏に隠していたとしか思えない中型の斧を取り出した。さらにその斧を持って、とても危ない振る舞い。せまい洞窟の中で振り回した。
ミノタウロスはその自慢の怪力を買われ、万が一剣を絶対に渡さないようにするための、言わば用心棒も兼務していたのだ。
ここは本来ならば大型の斧が似合う場面であろうが、さすがに洞窟の中では、中型で我慢といったところか。
「やったろうけ!」
とにかくこれで、板堰の持ち前の戦闘心に、見事大きな火が点いた。だがあいにく、今は手持ちの剣が無い状態。そこにすかさず、千恵利が飛びついた。
「きゃっ♡ これってあたしの出番やでぇ♡」
ひと声高くはしゃぐなり、その姿を瞬時にして、パッと元の剣へと変えた。
それこそ瞬き一回の間に、金髪女性の姿が洞窟内から消失。板堰の手には、華麗な剣が握られていた。
これにて魔剣と斧とで、勝負は五分五分といったところ。しかしいきなり二島が、戦意充分となっている板堰の軽装鎧を、うしろからつかんで引き止めた。
「あきまへんぞ、板堰殿! ここでの刃傷沙汰は、でらいまずうございます!」
「お、おい! あげーな牛の木っ端役人なんぞ、軽う片付けられるってもんじゃぞぉーーっ!」
板堰はそれでもまだ、やる気であった。だが二島は断固として、頭を横に振った。
「それもあきまへん! ここであなた様が人をお斬りになりはったら、それこそやつらの思うツボ! 二度とその剣を握ることがあかんようになってしまいますぞ! ここは三十六計、逃げるにしかずですぅーーっ!」
「そんなんややぁーーっ!」
二島の大声を聞いたようだ(耳はどこ?)。魔剣が千恵利の声でわめき出した。
「あたし、この人ともう離れ離れになりとうなぁーーい☂ ずっといっしょにおりたいねぇーーんっ☃」
「そ、そうけ……ほな、逃げよう!」
これにて板堰もようやく、戦いから逃走へと考えを変えた。しかしこの間にも、逃げようとするふたりと一本(?)を追って、あとから斧を右手に握ったミノタウロスが雄叫びを張り上げた。
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