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『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (12)

「あらぁ、ようわかったわねぇ♡」

 

 二島から正体をズバリと指摘され、正面から指までも差された千恵利であった。ところが彼女の反応は、物の見事にあっけらかんとしていた。

 

「そこの背中にけったいなモンしょってるおじさんが言うとおりやで☆ そうやねんな、あたしは魔神やねん♡ もっとも剣が人に化けちゃったもんやさかい、誰が見てもわかる思うんやけどなぁ♡」

 

「ま、まあ、それを申されると、身もフタもありまへんがな♥」

 

 千恵利から逆に突っ込まれて苦笑を浮かべながらも、二島がもう二言三言を付け加えた。

 

「ただし、私はまだまだおじさんではあらしまへんで✋ 確かに長寿のエルフゆえに、並みの人間の三倍近い人生を送らせていただいてはるのですが、こう見えてもまだまだ独身でございまするので✜ それと、私の背中にあるのは決してけったいなモンではありまへん☞ これは私が長年の友としている竪琴という立派な楽器でございまして……」

 

「あ、そう♨」

 

 吟遊詩人の長い御託など、千恵利は全然耳に入れていなかった。それよりも魔神の彼女は、ただひたすらに板堰の右腕にしがみつき、その恐るべき本性からは考えられないような甘ったるい声で、ささやいてばかりいた。

 

「なあ、こうやってあたしを岩から抜いてくれはったんやからぁ、大手を振ってこんな陰気なほら穴から出たほうがええんとちゃう? あたしはこん日を、もう自分でも覚えとらへんくらい、何百年も待っとったんやからさぁ♥」

 

「……ちーと待ちや……ちーとだけ考えさせてくれんかのぉ☃」

 

 千恵利からの甘味たっぷりなお誘いを、板堰は頭をブルルッと横に振り払い、冷や汗をタラタラと流しながら、なんとかしてかわそうとした。しかしここで、二島までが千恵利に加勢するような言動をしてくれた。

 

「そんなにお悩みなされることもないと思いまんがな、板堰殿✌ 我々は立派にルールにのっとって、岩から見事に剣を引き抜いたのですからなぁ……おっと、引き抜かれたのは板堰殿でしたな☺ これは失礼☠ まあとにかく、抜きはった剣がたまたま魔神であったと言うのが、想像の範疇から大きく逸脱してはったんやが、それでもあなた様が咎めを言われる筋合いは、一切これっぽっちもございまへんのやさかいに♡」

 

「やっるぅ〜〜♡ このおじさん、ようわかってはってんやなぁ〜〜♡」

 

 千恵利が吟遊詩人の意見に大喜びをした話の展開は、今さら言うまでもなし。なんだか二対一の様相となっているようだが、実は板堰自身の考えも、そちらの方向へと傾いていた。

 

「そ……そうじゃのぉ★ わしゃちーともやましいことはしとらせんし……堂々とこっから出る権利があるんじゃ……♥」

 

 なんにしても、長年追い求めてきた理想(少々……いや、かなりに微妙)の剣が、こうして我の手に入ったのだ(?)。その剣が女の子に変身するというとんでもないシロモノであったとしても、悩むのはずっとあとからでも良いはずだ(?)。

 

「わかったけー……では失礼するけぇのぉ☀」

 

 決心が定まれば、この間ずっと控えていたミノタウロスの役人に、ペコリと一礼を行なうのみ。板堰と二島がそろって剣が変じた魔神――千恵利を連れ、威風堂々と洞窟から退場することにした。


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