『剣遊記番外編U』 第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡ (11) 「はぁっーーい♡ あなたがきょうから、あたしの持ち主になる人やねぇ♡ あたしん名前は福柳木千恵利{ふくりゅうぎ ちえり}っ♡ どうぞよろしゅう頼んまっせぇ♡」
このあまりの珍事態発生で、体格の良いミノタウロスのお役人も、おしゃべりがうるさい吟遊詩人も、それから主役――道場破りで名高い孤高の戦士も、たちまち語るべきセリフを見失った。
それでも板堰は、ようやくの思いで声を裏返したまま、突然現われた金髪娘の自己紹介を、口パクのように反復した。
「ふ、ふくりゅうぎ……ちえりぃ……?」
「ご明解っ♡ ようできましたわぁ♡」
完全に浮き足立っている板堰とは正反対。どうやらご機嫌上々でいるらしい金髪娘――千恵利とやらが返事を得るなり、それこそうれしそうな感じで、板堰の体にビタッと全身で抱きついた。
「うわぁっ!」
板堰は思わず上擦った声を、また上げた。
なお、剣から変じたとはいえ、千恵利とやらは、きちんと着衣済み。
そこのところはご安心を。
上は体型ピッタリの白いTシャツに、下は脚線美丸見えの半ズボン式Gパン姿。要するに、体の線がはっきりと浮き出ている服装なので、頭のやわらかい世の男性諸氏にとっては、これはまさに癒し系格好の典型といえた。
とにかく完全に呆気に取られている板堰であるので、抱きついた千恵利を無理に突き放すことも不可能。ただトンチンカンな問いを繰り返すしかできない有様となっていた。
「……おまえ……日本人なんかのぉ?」
もっとも、このような的外れ的な質問をしたのにも、立派すぎる理由があった。それは千恵利が金髪なのはすでに記しているが、実は瞳のほうも見事な碧眼。西洋人特有の、青く澄んだ色の瞳をしていた。
おまけに千恵利の素肌が白く透き通っているような色だとなれば、これでは黒髪黒眼の東洋人とは、とても言えない見かけでいた。
ところが、ある意味失礼ともいえる板堰の問いに、千恵利はしゃあしゃあと答えてくれるだけだった。
「あたしは日本人やで♡ そん証拠にちゃんと日本語しゃべりようやないか♡」
「い、いや……そげーな問題じゃのうてのぉ……☂」
この一方で、板堰同様、初めは呆然自失気味の二島であった。だがこの間、彼なりに考察をしていたらしい。その解答がようやく出たのかどうかはわからないが、いきなり洞窟内で奇声を張り上げた。
「わ、わかりましたぞぉ☀」
「うわっ! そ、そげー脅かすんじゃねぇ☠ で……わかったって、なんがじゃ?」
板堰は千恵利に抱きつかれたままで尋ねてみた。エルフの吟遊詩人は、いかにも自信たっぷり気の顔でいた。
「それはでんなぁ、ここにおられる、先ほどまで剣であられたこのお方……千恵利さんでしたかな?」
「そうやで♡」
なにかおもしろいモノを見るような目線で、千恵利が二島に応じた。そこをすかさず、二島が再度問い直した。それも、右手人差し指でしっかりと、剣が変じた女性を指差しながらで。
「では、この私の推論を聞いていただきたいんでおますんやが、この私が愚考いたしまするに千恵利はん、あなたのご正体はズバリ! 魔神{ジニー}でございますな♪」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |