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『剣遊記番外編U』

第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡

     (10)

 しばしの沈黙が、洞窟内の祭壇前を支配した。だけど、最初に声を発した者は、やはり二島であった。

 

「お、お見事でんがな! 板堰殿!」

 

 その歓喜に引っ張られるかのようにして、板堰自身にも徐々に、自分の自我が蘇{よみがえ}ってきた。

 

「わ……わしが……わしが抜いたんけ……? この魔剣を……☁」

 

 なんだか夢のような気分となっている板堰とは対照的。横で威張っていたミノタウロスは、牛ながらモロに、『あわわわ😭』の顔付き。声のひとつも出せない状態となっていた。こちらはむしろ、悪夢でも見ているような面持ちに近いモノがあった。

 

 このような空気の中、二島だけは場の雰囲気から浮いているかのごとく、子供のように無邪気にはしゃぎまくっていた。

 

「と、とにかくこれはお目出たいことでんがな! 実を申すと、この私もまさかと考えておったのですが、まさにまさかこの場においてこのような奇跡に巡り会えるなんてやねぇ! この私の長いエルフの寿命と吟遊詩人生活を持ってしましても、これほどの大感激を受けた記憶は、ここ五十年ほどありまへんでしたぞぉ!」

 

「……これは奇跡なんかのぉ……☁」

 

 騒ぐ二島になんとなく乗せられた気持ちになって、板堰はポツリとつぶやいた。その直後であった。

 

「奇跡なんかやあらへんで☀」

 

 突然甲高い女性の声が、狭い洞窟内に響き渡った。

 

「なにぃ?」

 

「なんですとぉ?」

 

「だ、誰やぁ! ぶもおおおっ!」

 

 板堰、二島、それにやっと声を出したミノタウロスも含めての三人が三人。慌てて洞窟内をキョロキョロと見回した。

 

 だが当然。突然聞こえた声音に該当する女性など、現在この場にいるはずがないではないか。

 

「……い、今の声はなんじゃ?」

 

 いつもの戦士らしくもなく、まるでキツネに化かされたような思いになって、板堰は二島に尋ねてみた。もちろん物知りなはずの吟遊詩人とて、この問いには答えられなかった。

 

「さ、さあ……この私にも、なにがなんやら、さっぱりでんなぁ……もしかしたらこれは、この洞窟内に潜んでいる魔物の類でございましょうや……?」

 

「失礼やねぇ☠ あたし、魔物なんかやないでぇ☠」

 

「うわぁ!」

 

 再び――それも初めよりもさらに明瞭な声音が響いた。それと同時だった。板堰に握られている魔剣がいきなり、その手より自分から離れ、さらに宙にふわりと浮き上がったのだ。

 

「け、剣が!」

 

「な、なんと! これは面妖な!」

 

 この異常事態に、板堰と二島は驚がくの顔でお互いの目を見張った。それから三人の男たちが注目をする上、剣が空中にて勝手にクルリと一回転。細めの剣がパッと一瞬にして、その姿を金髪の若い女性に変えたのだ。


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