『剣遊記番外編U』 第二章 伝説の魔剣って、あ・た・し♡ (1) 京都府から奈良県へ向かう道は簡単。ただまっすぐに、南の方向へ進む街道を歩めば良いだけの話であるのだから。
ただし、言うは易いが馬車なしの徒歩行を決行すれば、やはり丸一日以上の日程がかかるもの。
奇妙な縁と成り行きで、肩を並べる戦士の板堰と吟遊詩人の二島であった。だけどその道中は、意外と静かに粛々と進んでいた。その理由は単純そのもの。
「頼むけー、道行くときは必要なとき以外おらぶんじゃねぇけーの☁ よけいなおしゃべり始めたら張り倒すけー☠」
「承知しました♠」
二島の長広舌に辟易している板堰は、剣の代わりに拳をちらつかせ、よくしゃべるエルフの吟遊詩人をおとなしくさせていた。
ちなみに現在、長剣を所持していない板堰の右の拳には、彼の隠し武器――金属製のナックルダスターが五本の指に嵌められていた。つまり板堰は剣を使わない――あるいは使えない場合にそれを振るって、敵のアゴを打ち砕いていると言う。
さらにナックルダスターとは、そのようなケンカのときに指に嵌めて使用をする、武器と言うよりも凶器と称したほうがふさわしい、極めて危険な一物なのだ。
すなわちこれこそ、板堰自身の言うところの、最後の隠し武器なのである。
ところがここで、大いに意外な事実。二島はいったん黙らせてみると、予想外に無言のままでいた。
冗談抜きでこの吟遊詩人は、しゃべり続けなけりゃそのまま死んじまうんけー――などと、板堰はなかば本気で考えていたのだが。
「あんた……けっこう物静かなんじゃなぁ♤」
「返事を戻してもよろしいですかな?」
板堰の何気ないつぶやきをすぐに耳に入れた感じで、二島が軽く念を押した。
「返事ぐれえはええが……でーれー長ごうなるんじゃねえけぇのぉ☠」
「心得ました♠ 実を申しますと、私はこのように見えはっても、吟遊詩人を本格的にスタートする以前は、これでも無口で通っていた男でございまんのや♡」
ここで一度口が開いてしまえば、二島の舌は実に軽やか。板堰は内心で舌打ちをした。
(嘘じゃろ!)
ついでに素早い口止めも忘れなかった。
「ちーと待てー! さっそくしゃべり過ぎじゃあ♨」
たとえ短い話題でも、この吟遊詩人の場合、常人の常識を完全に逸脱していた。それを骨身に沁みて嫌というほど味わっている板堰は、すかさず右手に嵌めているナックルダスターを振りかざした。
「おっと! これは私といたしましたことが、またもや暴走と脱線をおっ始めるところでございましたなぁ♡」
一応、多少しゃべり過ぎの自覚はあるらしい。エルフはきちんと口を鎮めてくれた。だけどもけっきょく、元の木阿弥だった。
「我ながら自重はしているつもりなのですが、これも職業柄の性分を申しましょうか⚐ それとも生まれながらの好奇心に負うところのほうが大のようでございまして☻ そやからこそこうして諸国を漫遊し、この好奇心を満足させてきたつもりだったのでございまするが……✌」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |