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『剣遊記Y』

第二章 伝説の剣豪。

     (6)

 剣豪板堰守は見た目の印象どおり、極端に口数の少ない男だった。そのため衛兵隊での対談は、大門の根掘り葉掘り的な質問攻めで終始した。しかしその途中で、部下の衛兵が、詰め所の応接室に入ってきた。

 

「隊長、ちょっとよろしかですか✐」

 

「なんだ☹ この忙しいときに♨」(注 仕事で忙しいわけではない⚠)

 

「はい☹ 実は覗きで捕まっちょる男がおるとですが……☁」

 

「えーーい! 忌々しい♨ すぐ行くわい! では、少々の失礼を♥」

 

 これにて衛兵隊長が、応接室から退席。この突発的事態を絶好のチャンスとし、ようやく孝治たちにも、板堰と話のできる順番が巡ってきた。

 

 現在孝治たちのいる部屋は、ふだんは衛兵隊の会議室として使用されている所だった。それを大門が板堰のためにわざわざ急きょ綺麗に清掃をさせ、孝治たちもちゃっかりと同室させてもらっているのだ。

 

 余談だけれど、実は涼子も呉越同舟していた。孝治ももちろん、涼子の存在に気づいていた。

 

(どげんして涼子がここにおるとや?)

 

 一応疑問には感じたものの、いつものパターン(涼子の存在は内緒)と場所が場所(衛兵隊詰め所の中)である。孝治は誰にも幽霊の同居中が言えず、ここでも黙っているようにした。流れる冷や汗を、ハンカチで拭き拭きしながらで。

 

(あとでとっちめてやるけね☠)

 

「どげんしたとや、孝治☛ 汗臭かばい♐」

 

 嗅覚のするどいワーウルフ🐺である正男から変に感じられながらも、孝治はとりあえず、話題の中心を板堰に置いた。

 

「うわっち! い、いや……ただの緊張の汗やけ♋ なんせすっごい有名人といっしょにおるんやけねぇ♡」

 

 実際、孝治のセリフに嘘はなし。特に大介など、板堰の剣技に徹底的に惚れまくっている様子っぷり。

 

「さっきは凄い剣の技ば見せてもろうて、おれはとても感激してますっちゃ! 目にも止まらん早業なんち、実は作り話っち思いよったとですけど、きょうはそればほんとに見てしもうて、考えば変えましたっちゃ! ほんと、おっとろしゅなこつですっちゃねぇ!」

 

「早業かぁ……しかし、きょうの対戦はある意味他流試合になるわけじゃけぇ、簡単にそう言っていいもんじゃろうかのぉ……♐」

 

「そげえことなかですよ♡♡」

 

 ここでも板堰は自分を謙遜していたが、大介は一向に怯まなかった。しかし、たとえ他流試合であったとしても、剣技が決して過小評価されるもんではなかっちゃろうもんと、自分もはっきりと目撃していた孝治は考えた。

 

仮におれひとりで、あのチンピラ三人ば相手に戦っちょったら、絶対にあれほど早よう決着がつくはずなかっち思うけね☠ 苦戦に苦戦ば重ねたあげく、流血沙汰になるんは必至ばい――と。

 

「そこまでわしを持ち上げる気じゃっやたら、やはりちーとは言っておかにゃならんじゃろうて……✄」

 

 いくら謙遜を繰り返したところで大介を始め、一同はまったく引き下がらなかった。そこでなのか、板堰が鞘に収めていた自分の剣を、居並ぶ孝治たちの前に差し出した。

 

 一番初めに見た印象のまま、まさに剣の持ち主自身の身長に匹敵する長さの剣である、それを。


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