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『剣遊記Y』

第二章 伝説の剣豪。

     (2)

 そんな孝治の迷惑気分など、てんで知った話ではなし。大門が真面目くさった顔をして、ケンカの現場検証と事情聴取に立ち会っていた。

 

「え、衛兵さん! こ、こいつらがオレたちにいきなり因縁つけて、こんな目に遭わせてくれたんですよぉ!」

 

 チンピラその一が鼻血を垂らしながらでほざく嘘八百を、衛兵隊長である大門がふむふむとうなずき、黙って聞いている様子。

 

「てめえらぁ! 汚いっちゃ!」

 

 そのあまりにもシラジラしい虚言で、大介がいきり立つ。しかし大介のうしろに立つ灰色マントの男は、ここでも悠然と構えたまま。チンピラどもがどんなに吼えようと、まったく動じる様子がなかった。

 

「衛兵さんも、オレたちとおんなじ人間ならわかるでしょ! こんなリザードマンと人間様の言うことの、どちらを信じるんです!」

 

「うわっち! 滅茶苦茶言いようばい!」

 

 孝治も思わず憤慨。しかし、こんな差別意識丸出しなチンピラの言い分に、しばし衛兵隊長が耳を傾けたあとだった。その隊長である大門が突然うしろに振り向いて、控えている部下の衛兵たちに、大きな声で命令した。

 

「この三人を衛兵隊に連行しろ! それからそこの御三方、おまえたちは無罪放免だな☀」

 

「ええーーっ!」

 

 当然の結果ながら、このどこからどう見ても一方的な裁定に、チンピラの側から不平の声が上がった。これでは一応勝利した側の孝治たちでも、頭をひねるような結末と言えそうだ。

 

「うわっち! い、いいと……?」

 

「ど、どうしてぇーーっ! オレたちは被害者なのにぃーーっ!」

 

「黙れえっ♨ 貴様たちの戯言{ざれごと}、黙って聞いてて虫酸が目いっぱい走ったわぁ! この人間の面{ツラ}汚しどもがぁ♨」

 

 泣きわめくチンピラどもを一喝。大門が自分のヒゲを右手で撫で回しながら、ふふんと鼻を鳴らした。これはまさに、孝治や大介にとっても、意外過ぎる話の展開だった。

 

 確かに大門が、あのような性悪連中に肩入れしなかった成り行きはうれしかった。だがしかし、これではどこからどのように見ても、明らかなるエコ贔屓。このような解決では後味が滅茶苦茶不味い気がして、目覚めがとても悪くなりそうである。

 

「これでよかっちゃろうかぁ……?」

 

 そんな孝治の気など、やっぱり知るはずもなし。大門がこちらを向いて、高らかに笑った。やや黄ばんでいる前歯をひけらかしながらで。

 

「むははははっ☀ まあ、こんなもんでいいだろう☆ あいつら、この町では見かけん顔をしておったから、どうせ近場の町から来おったあぶれ者だろうて✈ 怪盗逮捕に功績のあった君たちが、無益なケンカなどするはずがないからなぁ♡」

 

(隊長……そげなこつ言うたら、まずいっちゃよ……☁)

 

 孝治は内心あせりまくり。これではますます、エコ贔屓の要素が濃厚ではないか。ところがそんな大門の目線は、このときすでに、孝治たちのうしろにいる灰色マントの男に向いていた。

 

「おや? そこのおまえ……も見かけん顔だが……どこかで見た……いや聞いた覚えがある……ような服装をしておるなぁ……☞☞」


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