『剣遊記Y』 第二章 伝説の剣豪。 (13) 孝治は殿{しんがり}になって、板堰のあとをついて行こうとした。このとき幽霊娘――涼子がふわりと、孝治の右肩に舞い降りた。
体重がゼロなものだから、急に体に乗られても、まったく困ることにはならないのだが。
「うわっち? 涼子!」
一応声はかけたものの、涼子が実はこの場に初めっからいたことは、孝治もとっくに承知済みでいた。だから今さら、新たに驚いてあげる親切心(?)もなかった。
「なんね、今ごろ♐ そもそもなして、涼子がここにおるとや?」
『『なんね』はこっちのセリフっちゃよ☠ せっかくあたしがええ情報ば持ってきてあげたっちゅうとにぃ!』
孝治の愛想の悪い対応の仕方で、肩車をさせてやっている涼子が、プクッとふくれっツラになった。
それを見て孝治は言ってやった。
「なんかようわからんちゃけど、情報ならもうあしたでええっちゃけね☀ きょうは剣豪の先生のほうが先なんやけ✌」
『そうっちゃねぇ✍ あげなことがあったばっかしやけ、確かに今言うたかて、なんかつまらんかもねぇ✈』
面倒臭そうな素振りである孝治を見て、涼子もとりあえず、きょうの報告はやめにする気になったようだ。実際、話を聞かせる相手に付き合ってくれる余裕がなければ、言う側だって張り合いがないもの。
孝治はそこで、さらに突っ込んだ。
「それにきょう聞いてつまらんかったら、あした聞いたかてつまらんもんとちゃう?」
『もう、孝治ったらぁ♋ 相変わらず意地が悪いっちゃけぇ☠』
「これがおれの本性やけね☻」
けっきょくふくれた涼子を肩車したまま、孝治は意気揚々と、未来亭への帰路を急いだ。
とにかく早く帰って、店の女の子たちに伝説の剣豪を見せびらかしたい――この一心で、今は頭の中がいっぱい。なんと言っても、有名人とお知り合い(気取り)になれたと言う話は、真にもって最高の気分であるからして。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |