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『剣遊記Y』

第二章 伝説の剣豪。

     (11)

「うわっち! もう復活したっちゃけ♋」

 

「ぬははははっ♡ オレは不死身っちゃけね☀☀」

 

 このある意味、説得力だらけとも言える戯言{ざれごと}をほざいた荒生田の三白眼は、このときすでに、まっすぐ灰色のマントを着ている板堰と、リザードマンの青年――大介に向けられていた。

 

「ん? そこのふたりは見かけん顔っちゃねぇ♐」

 

 孝治はすぐさま、ふたりを先輩に紹介した。これも一応、後輩としての務めであるからして。

 

「せ、先輩も初顔合わせですっちゃね☛ この方は剣豪として全国的に有名な板堰守先生と、きょうから先生に弟子入りした北方大介さんなんです♥」

 

「ほう♡ そうけ、そうけ♡」

 

 孝治は順番に、ふたりを荒生田に紹介した――つもり。しかしこのサングラス😎野郎は、なぜか板堰には無視の態度。それよりも、やや引き気味である大介の右手を、勝手に握り締める行動に出た。それから再び、戯言の連発。

 

「なるほどぉ! 弟子入りしたいっちゅうからには、君は戦士の新米っちゃね♡ ゆおーーっし! 良かろう! このオレが責任ば持って先生になり、君を一人前の戦士にしちゃるけね!」

 

「……あのぉ、おれ、そげえこと、いっちょも言うとらんとですけどぉ……☁」

 

 大介が心底困った(らしい)顔になって、本当の先生――板堰に目を向けた。だけど肝心の師匠は、やはりおもしろそうな姿勢で眺めているだけ。むしろ、この突然な荒生田の奇行を、愉快に感じている様子がありありとも言えた。

 

 これには孝治も驚き。慌てて荒生田を引き止めようと、とにかく先輩の革鎧を両手で引っ張った。

 

「ちょ、ちょっと先輩! 先輩は板堰先生ば知らんとですか?」

 

 対する荒生田の返答は、実に簡潔明瞭。

 

「知らん☆」

 

 これは冗談ではなく、どうやら本当に御存知ないようだ。それどころか、考えようとする素振りさえも見当たらない。

 

 ここでさらに、荒生田がほざいた。身元引受人である裕志を、うしろでハラハラさせながら。

 

「とにかくやねぇ✌ こげなどこの馬の骨ともしれんやつの弟子入りなんちやめんしゃい✍ それよかこんオレがじっくり、あんたば鍛えてやるっちゃけね✌」

 

「ちょっと待ってっちゃ!」

 

 大介はもはや、明瞭なる困惑顔。日頃無表情といわれるリザードマンでさえ、はっきりと感情を表に現わす場合もあるようだ。また孝治たち後輩連も、先輩のあまりの独断専行ぶりに、開いた口がふさがらない状態。

 

 荒生田の浮世離れは、重々承知しているつもりだった。だがまさか、ここまで世間一般からかけ離れていようとは。

 

 まさに日本のおエラいさんたちが大好きな創作言葉――『想定外』の世界。

 

「おぬし、ちょっと待たんか♨♨」

 

 ここでついに、事態を見かねたのだろうか。今まで会話に参加ができず、珍しくも黙って状況を見ているだけだった大門が、初めて荒生田を止めに入った。

 

「この若者の師匠は、すでに板堰殿と決まっておるのだ! おぬしも同じ戦士ならば、多少は身の程をわきまえんかぁ!」

 

「しゃあしいっちゃねぇ! このオンボロ騎士さんはよぉ☠」

 

「な、ぬあにぃーーっ!」

 

 当然、おとなしく言うことを聞かない荒生田の暴言が、大門の頭に強烈な蒸気を噴出させた。

 

「ヤバかっ!」

 

 孝治は思わず、両手で自分の頭をかかえ込んだ。


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