『剣遊記番外編T』 第一章 出会った三人。 (7) だけれど美奈子は、この唐突とでも言うべきふたりの登場に、驚きよりもむしろ、奇妙な親近感を受けていた。
大人たちばかりが勝手に騒いでいる宴会の場から浮いている自分と、なにか共通するシンパシーのような感情をふたりに抱いて、なにかほっとする気分になったせいかもしれなかった。
それでも一応、初対面は初対面である。
「そうなんどすか♡ 千秋ちゃんと千夏ちゃんって言いまんのでっか☺ 見たところそっくりな顔やさかい、失礼なんどすが、双子なんでおますんか?」
「そや☆」
美奈子の問いかけに、ポニーテールのほうが先に返事を戻した。
「あんたの言いはるとおり、千秋とこの千夏は双子の兄弟やねんな✌ 一応千秋のほうが姉なんやけどな☝」
「はいぃぃぃ♡ 千夏ちゃんはぁ妹さんですうぅぅぅ♡」
「そ、そう……どすか♋ 高塔千秋{たかとう ちあき}ちゃんと千夏{ちなつ}ちゃんどすな……う、うちは天籟寺美奈子と言うモンでおます☟ 見てのとおりの魔術師やさかい、そこんところよろしゅうお願いしまっせ☺」
あまりにも天真爛漫丸出しな千夏に少々引いた気持ちになりながらも、美奈子も自己紹介を返してやった。おかげで少々、堅苦しいしゃべり方になってしまったけれど。
しかし美奈子をタジタジさせた千夏ときたら、もしかして自分自身が作ったかもしれない堅苦しい状況などに、まるで無縁の感じでいた。
「はぁーーっい! 千夏ちゃんと千秋ちゃん、美奈子ちゃんのぉ大活躍ぅ、ずぅっとぉずぅっとぉ見てましたさんですうぅぅぅ♡ とってもぉとってもぉ、カッコよかったさんですうぅぅぅ♡」
「美奈子……ちゃん?」
年下の少女から『ちゃん』付けで呼ばれるなど、けっこう長い魔術師生活の中でも、まったく初めての経験だった。だけども千夏の超明るそうな笑顔から見つめられると、美奈子はなんだか、すべてを許してあげられそうな気にもなってきた。
この気持ちは自分自身でも理解のできない、不思議な感情であるのだが。
「そ、そやなぁ……うちは美奈子ちゃんやね……☻」
美奈子は少しだけ苦笑の気分でうなずいてやった。
「こほん、まあ、千夏はこんな子やねんな✍ まあ、あんまし気にせんといてや⛏ 千夏もちょっとはしゃぎ過ぎやで⚽」
姉の千秋が、軽い咳払いで妹をなだめた。少々顔を赤くしながらで。
「確かにおもろい双子はんやなぁ♬♫」
美奈子は最初、あまりにも好対照な双子の出現に、かなりのとまどいを感じていた。だがそのうちに、おもしろくもない宴会に参加しているよりも、この双子姉妹と話をしてみたい気分になってきた。
「なあ、千秋ちゃんに千夏ちゃん、うちといっしょにどっかへ行きまへんか? ここにおってもあじもしゃしゃりもないようでおますし……☻」
「はぁーーい! 千夏ちゃん、美奈子ちゃんについて行きますですうぅぅぅ♡」
「実はそのセリフを待っとったんやで✌✋」
千夏と千秋も、すぐに同意をしてくれた。
こうして三人でこっそりと、祝いの席から姿を消すという、話の展開になってきた。
だけど、主役がいつの間にかいなくなっているにも関わらず、それでも構わずに宴会は強行されたのであるから、本当にお題目はどうでもよかったようだ。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |