『剣遊記番外編T』 第一章 出会った三人。 (6) 祝いの席の会場は、村の集会場である公民館が使われた。
その館内にある大広間では、美奈子を上座に座らせて、村人たちが飲めや歌えやのドンチャン騒ぎを繰り広げていた。
山賊壊滅が、よほどうれしいのだろう。しかし、ここまで羽目を外してしまえば、もはや宴のお題目など、あっても無いようなものである。そのあげく、誰もが勝手に酒びたりとなり、おまけに各々、馬鹿な一発芸に興じている始末。
こうなると、上座にいる美奈子の周囲には、自然と誰もいなくなっていた。
決して酒が飲めないわけではなかった。だけど美奈子自身の気分は、だんだんとシラけモードになっていた。その心境を表わすかのように、美奈子の瞳は、今やすっかり冷めに冷めまくりの状態。
(なんや……こうして見てみたら、けっこう強そうなんがおらはるやあらへんか……☹)
飲んで騒いでいる村の衆の中に、何人もの屈強そうな男たちが混ざっている様子を見るにつけ、美奈子はなんとなくだけど、だんだんと腹立たしくなってきた。
(これやったらうちがおらへんかったって、充分に山賊に対抗できたんやおまへんか? もっとも報酬をもらった身やさかい、今さら文句なんか言えたりしまへんのやけどなぁ♨)
そんな美奈子に、そっとささやきかける声があり。
「あんた……魔術師はんやろ?」
「はえ?」
美奈子はすぐ、声の方向に顔を向けた。しかし美奈子以外は誰も、この声に気づいていないようだった。
「おまいさんらは、どなたはんどすか?」
「はぁぁぁい! 千夏ちゃんですうぅぅぅ! 苗字さんはぁ、高塔さんてぇ、言いますですうぅぅぅ♡ とってもぉ高い塔と書くんですよぉ☀♡」
「それと、千秋言うんや✌」
声の主はふたりの少女だった。それも服装の違いこそあれ、身長と顔立ちはウリふたつ。ポニーテールと天然パーマ風の違いもともかく、同じ茶色系の髪をした、ポッチャリとしたあどけない笑顔が共通していた。しかし、ふたりにまったく飾りっけのなさそうなところを見ると、彼女たちも村の娘なのであろう。
今夜の宴の席にはお酒が入るので、子供の参加は本来御法度だったはず――にも関わらず、彼女たちは堂々と、宴たけなわの場に忍び込み、美奈子に近づいてきたようなのだ。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |