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『剣遊記番外編T』

第一章  出会った三人。

     (5)

 ただこのとき、美奈子もこれほど多くの人たち(およそ百人)に囲まれていなかったら、自分を見つめるふたつの視線に、もしかしたら気づいたかもしれなかった。

 

 その視線の持ち主であるふたりは、取り囲んでいる村人たちを、まったく眼中に入れていなかった。

 

 ただひたすらに、美奈子ひとりだけに、目線を集中させていた。

 

 そのふたりの右側――長い髪をポニーテールでまとめ、野伏風の茶色に縦じま模様の入った衣装を着ているほうが、もうひとりにささやいた。

 

「見たや、千夏、すっごうごついネーちゃんやなぁ♋」

 

 もうひとりが、このセリフに応えた。

 

「はい、見ましたですうぅぅぅ☀ あのお姉ちゃん、千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんがぁ捜してたぁ、とってもえっらい魔術師さんかもしれましぇんですうぅぅぅ☆☆」

 

 こちらのほうは先の野生的衣装ではなく、都会風のチャラチャラしたメイド風の服装でいた。しかも髪は天然パーマな感じで、大きなヒマワリのブローチを飾っていた。

 

 見た目に完全なる、実に対照的なふたりであった。だけど見事に共通している部分も多かった。その共通の極めつけはふたりの顔立ちが、まったく同じとしか言いようがない点にあった。いや、服装をすべて無視すれば、背格好そのものも。

 

 まるで合わせ鏡のように。

 

 しかし、このふたりのつぶやきなど、周囲の誰も耳を傾けていなかった。喜びに沸く村人は皆、幼児のようにあどけない童顔の少女たちなど、まるで気にも留めていないのだ。


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