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『剣遊記番外編T』

第一章  出会った三人。

     (4)

 村に迷惑をかける山賊団を、なんとか退治してほしい。

 

 通りがかりのうら若き女魔術師――美奈子は、ぶらりと立ち寄った近畿地方南部に位置をする和歌山県のとある山村で、このような依頼を請けていた。

 

 公的取り締まり機関である地元衛兵隊でも手を焼く山賊一味を、業を煮やした村長がこの際誰でも――と、旅の途中である素情もわからない魔術師の美奈子に頼んだのだ。

 

 ところが彼女は見事、期待に応えてくれたわけ。この超うれしい事態を、喜ばないはずはなかった。

 

 もっとも美奈子としては、魔術の腕試しと退治の報酬額がけっこうな値段だった話に魅かれただけ。別に義理でも人情でも正義感でもないのだ。

 

 もともと美奈子には、偽善を蔑{さげす}む性癖もあったし。

 

「てっことで、今夜は村で勝利の宴会を行ないますさけぇ、美奈子はんも、ぜひともご参加してもらえまへんか☆」

 

「は、はぁ……そないいたします……☁」

 

 仕事の報酬さえ頂けば、美奈子はさっさと、次の町へと行きたかった。しかし村長を始め、妙に盛り上がる村人たちの雰囲気に、どうやら飲まれたらしい。美奈子は渋々ながらも、参加を承諾する成り行きとなった。

 

(うちって……肝心なとこで言いたいことが言えへんのやわぁ〜〜☃)

 

 一応は自覚している自分の性格に、美奈子は周囲の人たちから悟られないよう注意しながら、くすっと苦笑を浮かべた。

 

「ほな、早よいこら☀ 宴会の用意はできてまんのやさけぇ☺」

 

 そんな美奈子の心の内など、知るはずもなし。村人たちが全員で、意気揚々と山道を里の方向へ下りていく。

 

 なんのことはなかった。彼らは美奈子と山賊団が戦っている最中に、勝利の祝賀会の準備を、とっくに完了させていたのだ。

 

 これは通りすがりの女魔術師に、ここまで絶大な期待と信頼を寄せていたとも言えそうだ。つまりはよほど、美奈子の力を過信していたのか。それとも実は、山賊団を軽く見ていただけなのか。

 

 それならそれで、別に美奈子の出番は必要なかったはずでもある。

 

 しかしまあ、すべてが終わった今となっては、美奈子にとって、どうでも良い話なのだが。


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