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『剣遊記番外編T』

第一章  出会った三人。

     (3)

 それほど広くはない山道の脇の野原で、いったいどこに隠れていたのやら。

 

「やったでぇーーっ!」

 

「美奈子はんの勝利やぁーーっ!」

 

 周辺の木陰などから、一斉に多くの人たちの歓声が湧き上がった。続いて近くの原っぱや周囲の藪の中からも、バラバラと大勢の老若男女が現われた。

 

 これら彼や彼女たちは、いずれも鎧や毛皮を着込んだむさ苦しい格好ではなかった。ほとんどの人たちは犂{すき}や鍬{くわ}をかついでいるだけの、極めてふつうの村人たちであった。

 

「美奈子はん! ほんまありがとさんやでぇ♡ これで山道を安心して往来できるし、村も平和になりまんのですからのぉ♡」

 

「……そうでっか、村長はん、それはよろしゅうおまんなぁ☁☺」

 

 誰よりも早く、一番先に手を握ってきたハゲ頭の村長とかいう人物に、魔術師の女性――天籟寺美奈子{てんらいじ みなこ}は、やや引いた気持ちになっていた。

 

 それでも即席の笑顔で応対。だけども切れ長の瞳は、決して微笑んではいなかった。

 

(この人ら……今までずっと、ここら辺のあちこちで高見の見物しよったんやおまへんのけ?)

 

 しかし本心を、ここであらわにするわけにはいかない。なぜなら村長たちは一応、美奈子を雇ってくれた、大事な依頼人の方々であるのだから。


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