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『剣遊記 邂逅編T』

第一章  出逢い……そして永遠に。

     (29)

 寒い。

 

 また少し冷えてきたようだ。

 

 樹木に遮{さえぎ}られてよく見えないが、辺りは完全に暗いので、恐らく月も星も、黒雲に隠されたのかもしれない。

 

 元より灯火の類――松明{たいまつ}もロウソクも、持ち合わせてはいない。

 

 それよりも私が心より欲するもの。それはただ、人の温もりのみ。

 

 私を温めてくれる人――彼女は果たして、私の元へ来てくれるのだろうか。

 

 わからない。

 

 しかし、信じている。

 

 理解もしている。

 

 私が彼女を必要としていることを。

 

 彼女は来てくれる。

 

 そう思い、待ち続けること、いつからだろうか。樹海の隙間から垣間見える、ほんの微かな灯火の光。

 

 それだけで充分。

 

 来てくれた。

 

 私の元へ。

 

 私はここだ。

 

 連れていっておくれ。

 

 君が案内をしてくれる所へ。

 

 永遠に心をともにできる世界へ。

 

                            剣遊記 邂逅編T 了


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