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『剣遊記 邂逅編T』

第一章  出逢い……そして永遠に。

     (20)

「しぇんしえい! 出番ですばぁーーい!」

 

 戦いがピークに達したんやなかろっか――てなころやった★ 子分どもの半分くらいがおれと中年戦士(ほとんどこっちのおっさんのほうの手柄なんやけどね☻)にやられた傷の痛みにうめいちょるときになって、急にハゲの親分が、森に向かってわめき始めたと⚠

 

「うお〜〜い!」

 

 その呼び声に応えてか、原っぱの東側にある森林の奥から、新たなる大男が現われやがったっちゃ☠ そいつはたぶん、自分が呼ばれるまで、ずっと森に隠れて待っちょったんやろねぇ⛑

 

 やけどよう見たら、そいつはただの大男やなかったと♋ すでに周囲はかなり暗{くろ}うなっとったとやけど、幸いっちゅうか、月明かりが煌々と照りよった⛤ やけんそいつの格好は、まるで昼間んみたいによう見えた♾ それによると上半身は汚れたボロボロの特注シャツば着て(色はあせりまくりで、もはや原色不明)、筋骨ムキムキこそたくましいっちゃけど、かなりいっぱい、常人と異なる部分があったとやけ♋ やけんおれは、思わず叫んでしもうたったい♋♋

 

「うわっち! ヘカトンケイレス{百腕巨人}ばぁーーい!」

 

 まあ、巨人とは言うたかて、身長はおよそ三メートルほど☝ それでもデカいことはデカかとやけ☠ また、百の腕っちゅうても、ほんとにそげん腕があったら、体中それこそ頭のてっぺんから足のつま先まで、五本指の腕だらけでウニみたいな体になるっちゅうもん♋ やけんきちんと数えたわけやなかけど、それでも二十本くらいの数の両腕が、肩から脇の下にかけて伸びちょうったいね☠♋

 

 要するに、それだけの数の腕があれば、どげな数の武器かて使い放題っちゅうこと♋ そげな暴れだしたらとてもやなかけど手に負えん超乱暴モンが、山賊どもの用心棒ばしよったとはねぇ☠

 

「ちっ! しゃあしい野郎が出たもんばい☢」

 

 今や完全に共同戦線ば張ってくれちょう中年戦士のおっさんも、ヘカトンケイレスの御登場には、苦虫ば四百匹噛んだような顔になっちょった☛ そげなおっさんと背中合わせしちょうこんおれも、向こうの汗がこちらまでひたひたと感じられるほどやったたい☂

 

 あとで考えてみたら、おっさんの鎧は金属製のはずやったとやけど?

 

「奴{ヘカトンケイレス}の戦法は、とにかくたくさんの武器ば持つんが常とうったい✍ やけん、見ればまだ棍棒の一本も持っとらん今がチャンスかもしれんちゃね☞」

 

「そ、そんとおり……ですっちゃね♋」

 

 おれかてヘカトンケイレスの恐ろしさは、充分以上に知っちょうつもり✎ とにかく百本っちゅう大袈裟な言い方は棚に上げたかて、たくさんの武器ば持って同時攻撃できるっちゅうことは、ほんなこつやからねぇ☠ できれば一生お目にしたくはなかったと、本気でそげん風に願っちょったんやけどねぇ♋

 

「で、どげんします?」

 

 若輩者の特権で、おれは中年戦士に打開策ば訊いてみたと✑ するとおっさんは間髪ば入れんで、この場における最も前向きな解答ば示してくれたったいね☀

 

「こ、ここは三十六計、逃げるにしかず! 行くっちゃぞぉ!」

 

「うわっち! は、はい!」

 

 これは少々、予想外な展開やった⚠ そんせいで、おれの足が一瞬、出遅れてしもうたと♋

 

「うわっち! ま、待ってやぁーーっ!」

 

 すでに中年戦士からも、ついでにその相棒である盗賊――だと思うおっさんからも、とっくに先ば越されちょった⛐

 

で、そんすぐあとやった⛢

 

「なんモタモタしちょうとねぇ! 早よせんねぇ!」

 

「うわっち! あ、ああ……!」

 

 おれは魔術師の彼女からも急き立てられ、ほうほうの体で駆け出す有様になっちまったばいねぇ☹

 

 それはとにかく、彼女のおかげで体勢ば立て直したおれは、中年戦士たちに遅れまいと、一生懸命に全力疾走ばしてやったと☀ もちろん彼女への、最低限の礼も忘れんかったけね♡

 

「すまんちゃねぇ♥ こん恩は一生頭に入れちょくけね♥」

 

「どういたしまして♡ なんか忘れっぽい気もするっちゃけどねぇ♠」

 

「うわっち!」

 

 しかしおれも全速なんに、魔術師の彼女の体力もさっきと同じで、そーとーなもんやった♋ おれと並んで全速で走りながら、満足気味に微笑む余力があるとやけ✌✍ しかもしっかりと、右手でVサイン付きのセリフまで言えるほどなんやけねぇ♐

 

「まだまだ、恩返しはこげなもんやなかっちゃけね✌ だいたい今やりようことっち、恩返しの内にも入らんとやけ♡」

 

「そげなもんけぇ?」

 

 この期に及んで、いまだ『恩返し』にこだわっちょうところに、おれは彼女の胸の内に秘められちょう、なんか物凄か執念みたいなモンば、こんとき思いっきりに感じたっちゃねぇ☀☆


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