『剣遊記11』 第五章 人質奪還作戦。 (8) 「他にだと?」
折尾がヒョウの顔で、不審丸出しを見事に表現した。それでも美奈子は、いかにも自信たっぷり気な素振りのまま。
「そうどす♡ あほらしいくらいに簡単なことどすえ♪ 先ほどお披露目しましたうちの『火炎弾』で、けったくそわるい連中をなおしてしまえば済むことですさかい♥♥」
「うわっち! 本気ねぇ! たまにはそん発想から離れちゃりぃ!」
美奈子の強行発言を聞いて、孝治は慌てて止めに入った。
「そんじゃ人質はどげんなるとやぁ! それとも人質は本人の自己責任けぇ! なしていつも、そげなタカ派的な考え方しかできんとねぇ!」
すると美奈子は、孝治の慌てぶりを、逆におもしろがっている様子。挑発的な笑みを浮かべ、孝治にささやき返すばかりでいた。
「ふふっ♥ 他愛のおまへん冗談でおます♥ ほんにかけるつもりなんは『睡眠』魔術やさかい、人質も御無事に決まってまっしゃろ♥」
「そ、そんなら、ええとやけどぉ……☁」
一応口では安堵の息を吐きつつ、孝治はなおも、内心で叫んでやった。
(嘘こけ! 何回そんセリフにだまされたっち思うとや♨)
しかもここでは孝治だけではなく、折尾や帆柱など一同全員が、美奈子を疑惑の目で見つめていた。だけど確かに今は、相手(密猟団)側に魔術師はいないようでもあるし、こちらが魔術を使わない手はなかった。けれど、それにしても――だった。
「相変わらず性格の悪い魔術師っちゃねぇ〜〜☠」
「お誉めに授かり光栄でっせぇ♡♡」
孝治のややレベルの低い嫌味に、美奈子が動じるはずもなかった。それどころか、口元に右手を当てての高笑い。
「そないなことで、あの方たちにはわからへんようにしまして……☻」
あとは声に出さないよう、美奈子が小さな呪文を唱えようとした矢先であった。
「そうはいかんざぁ!」
「うわっち!」
いきなり近い場所から、孝治も耳慣れしない声が轟いた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |