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『剣遊記11』

第五章 人質奪還作戦。

     (5)

「そないなことどしたら、ここで待っておればよろしゅうおまんのやおまへんか? かます話やおまへんのやけど、恐らくあちらはんから話し合いのため、山を下りてきはる、そないな風に思いまんのやわぁ☆」

 

 いつもながら、今まで黙って話だけを聞いていた美奈子であった。それがこの場でなにを思いついたかは知らないが、小岩に腰を下ろしていた体勢から、急にすくっと立ち上がった。

 

 すぐに孝治は尋ね返した。

 

「そりゃそうかもしれんちゃけど、それからどげんするつもり?」

 

 すると黒衣の女魔術師は、その表情にふっと、氷の微笑を浮かべてくれた。

 

「そやさかい、山賊はんたちが山から下りはって姿を見せはったときに、このうちが攻撃魔術をお見舞いすれば、すべては万事、事件は解決やおまへんか✌ ここはどうか、このうちにお任せしてくれまへんか✌」

 

 いったいなんの自信と根拠があるものやら。とにかく美奈子は一同を前にして、堂々と胸を張る仕草。

 

「……そ、それもまあ、よかっちゃが……♋」

 

 さすがの帆柱も、今の美奈子の自信過剰発言には、はっきりと青ざめていた。

 

「……また、自然破壊か……☁」

 

 折尾も同様だった。顔面の豹顔は毛皮に覆われて黄金色なのだが、これがふつうの人間であれば、やはり帆柱のように青くなっている状態だろう。

 

「こほん!」

 

 それから帆柱が軽く咳払い。改めて美奈子に尋ねた。

 

「で、魔術で攻撃したとき、沙織さんたちは無事に済むっちゃろうねぇ? なんちゅうたかて、沙織さんは店長から預かった、大事な……そのぉ親戚なんやけ……」

 

(そんだけやなかでしょうに♥)

 

 孝治には帆柱の本心は丸わかりなのだが、一応ツッコミはやめておく。それよりも場の空気が重たくなった状況を感じ取り、孝治は必死の思いに自分の頭を切り替えて、一同を取り繕うとしてみた。

 

「ま、まあ、皆さん☆」

 

 美奈子からさらなる、過激な発言が出る前に。

 

「と、とにかくここは、おれたちが山に行かんでも連中のほうから下りてくるそうですから、それまでに対策ば練っておいたほうがええんやなかですか?」

 

「孝治が言いようことも、正論っち思うっちゃけどぉ……☁」

 

 ここでなぜだか、友美が横ヤリを入れてくれた。

 

「対策立てる時間……なかみたい……☠」

 

「えっ? なして?」

 

 思わず孝治は理由を尋ねたのだが、友美は右手人差し指で、森の方向を指差すだけ。

 

「あっちんほうから来る人たち……あん人らがそうやなか?」

 

「うわっち! もう来たとぉ!」

 

 友美が指差した先の森林では、縄で体をグルグル巻きにされている沙織と浩子を連れたむさ苦しい野郎の一団が、いつの間にやら陣取って構えていた。

 

 孝治たちと対極している格好と位置になって。


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