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『剣遊記11』

第五章 人質奪還作戦。

     (4)

 けっきょく泰子は、裸の上から一枚の毛布(緑色)を羽織っただけの格好で、事態を報告する破目となった。

 

 そんなシルフを中心に円陣が組まれ、一同が泰子の話に耳を傾けた。とにかく裸さえ隠してしまえば、あとは万事OK。もはや着衣は面倒と言う話か。

 

 安易な。

 

「ほら、これ……☕」

 

「すまねえだ……☺」

 

 泰子はとにかく、まず自分自身の気を落ち着かせるためだろう。孝治から沸かし立てのコーヒーを受け取った。しかも一気に飲み干してしまう。

 

 その様子を孝治は、なんだか物珍しいような気分で眺めていた。

 

「泰子さんって……シルフなんやけ猫舌っち思いよったっちゃけど、そげんのとは違うっちゃねぇ☝」

 

 泰子が横目で孝治をにらんだ。

 

「なんなんだぁ、そいってぇ?」

 

「いんや、こっちんことばい☻」

 

 これ以上つまらない話を訊くのはやめ。孝治は話の本題に入ってみた。

 

「で、山頂辺りの岩場ばよう調べよったら、そっから山賊みたいな連中が出て、沙織さんと浩子さんがとっ捕まっちまったっちゅうわけ? そいつらいったい何モンなんね?」

 

「そんただこと、わたすが知るはずねえべぇ☠ そんたにわたすをジロジロ見ねえでけろ♨」

 

 泰子はどうやら、自分の裸を孝治から見られた顛末に、心の奥で根に持っている感じでいた。だけどこれは、誰が見ても不可抗力が明らか――なので、大っぴらに文句が言えないのだろう。

 

「しかしそいつらは自分の……いやおれの名を……そのつまり、はっきり折尾と言ってたんだな☜」

 

 横で孝治と泰子の話を聞いている折尾としては、そこがやはり、一番に気になる部分らしい。

 

「なんか、そいつらに心当たりでもあるとか?」

 

 気になる部分は帆柱も同じようで、とにかく折尾に事情を尋ねていた。これに折尾は苦虫を、少なくとも四百五十匹分噛み潰したような顔(豹顔での表現は、やっぱりむずかしい)で答えてくれた。

 

「正直言って、心当たりがあり過ぎなんだよなぁ〜〜☠」

 

 それから野球帽を脱いで、毛深い額を流れる汗をタオルで拭きながら、ぼそぼそとした口調で続きを答えた。

 

 一般に獣の場合、汗腺の構造は人間と異なるが、亜人間のノールだと、それほど変わらないようだ。しかし毛皮の下から汗が噴き出すなど、真夏はとてもつらいだろうなぁ。

 

「これは自慢話じゃないから今まで話さなかったんだが……自分が今まで摘発した密猟組織は、九十九から先は数えていないほどある✍ たぶん沙織さんたちを誘拐した連中も、その中のひとつと思う……☠」

 

「それって充分に自慢話じゃん✄✍」

 

 こちらが尋ねたわけでもないが、この場にて初めて聞く折尾の武勇伝に、孝治はやや冷やか気味の思いだった。だが折尾の話には、まだまだ肝心の部分が抜け落ちていた。

 

「でもそれじゃ、いっちょも手掛かりにはならんでしょ✁」

 

「そ、そんただことはねえだ☀」

 

 思わずなのだが、孝治は疑問を突いてみた。ここで唯一の現場目撃者である泰子が、出番とばかりに前へ出た。

 

「わたすが風になっでるときに聞いたんだぁ☞ あいら沙織と浩子さ人質にして、グリフォンと交換すんだっでぇ、そんたらこと言ってただぁ♐」


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