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『剣遊記11』

第五章 人質奪還作戦。

     (14)

「おいっ! 野郎ども!」

 

 そんな所で、今やすっかり勝利者気取りの煎身沙。おのれのうしろに控えている子分どもに、威勢よく号令を掛けていた。

 

 小太郎から受けたダメージなど、早くも気にしていない感じで。

 

「いっぷくしてねえで、ここはとにかくこざにくいグリフォンを、全員でおちょきんさせるっしぃ! そいつさえ手に入りゃあ、もうちかっぺこざにくい連中に用は無{ね}えっしぃ☠」

 

 『こざにくい→福井弁で生意気』連中とは、孝治たちキャラバン隊のこと。ずいぶんと舐めてくれたものである。

 

「へいっ!」

 

 親分の命令を受け、人質を拘束している以外の男どもが、総出で幼グリフォン――小太郎を抑えにかかった。これは小太郎が人馴れしている事情もあって、作業は順調にはかどるかと思われた。だが愛しき折尾から、強引かつ無理に引き離されたためであろう。

 

 クアアアアアアアアッ!

 

 (例外的とは言え)本来おとなしいはずの小太郎も、さすがに腹を立てたようだ。抑えにかかった野郎どもの内の三人を、力任せで全身の筋肉をフル活用。巨大な翼でバチンと、一挙に遠くへ跳ね飛ばした。

 

「うぎゃあーーっ!」

 

「わひぃーーっ!」

 

「どげぇーーっ!」

 

 幼獣とは言え、そこは怪力が自慢のグリフォンであった。左右に広げれば大人六人分ほどの長さがある翼と野生馬並みの体格では、取り抑えるほうとしても命懸けなのだ。

 

「わわわぁーーっ!」

 

「痛えよぉーーっ!」

 

 大事な子分をたちまち傷モノにされ、色を失った煎身沙が青ざめた(色があるじゃん☛)。それから事もあろうに、この密猟王は寄りにも寄って、宿敵であるはずの折尾に助けを求めてきた。

 

「お、おい! あのじゃらくせえグリフォンを、なんとかいっぷくさせるっしぃ♋」

 

 対する折尾は、むしろ平然とした顔付きでいた(豹顔で平然――またむずかしくなったなあ😅)。

 

「なんとかおとなしくさせろって言われてもなぁ……☁」

 

 口調は困っているが、目線は冷やか気味にして、煎身沙に応じていた。孝治にはこの目線が、なんだか本物の野生のヒョウの眼になっているように、このとき感じられた。

 

「な、なんか折尾さん、カッコようなったっちゃねぇ♡」

 

 そのカッコいい折尾が続けてくれた。

 

「おまえらがほしくてたまらなかったグリフォンだろ☜ ここは自分たちでなんとかするんだな✄」

 

「そんとおりっちゃ✌」

 

 帆柱も同期の隊長に同調した。

 

「そもそもおめえらは、グリフォン狩りの専門家なんやろうが☞ それがどげんして子供のグリフォンに手こずるとや? そこんとこが腑に落ちんとやが☛」

 

「う、うっさい!」

 

 煎身沙がおのれの顔面を、真っ青から真っ赤へと塗り替えた。それから恥も外聞もなしに、がなり立ててくれた。まさに情けない言い訳の始まりだった。

 

「きょ、きょうはおめえらとあおっさして(福井弁で『会って』)、交換交渉に来ただけだっしぃ! だから狩りの用意なんかしてねえんざぁ! とにかくこのえれぇ状況を、なんとかしいやぁ!」

 

「断る! 自分の不始末は自分でなんとかせい♨」

 

「こっちはわかいしゅの人質がいるのを忘れるんじゃないしぃ!」

 

「くそっ! それを言われると……☁」

 

 折尾は頑として、煎身沙の要求を拒絶するつもりであったろう。しかし形勢はいまだ、キャラバン隊のほうが不利のままなのだ。しかしこの一連の展開を、今までなかば傍観の立場で見ていたであろう美奈子が、ここでなにか、大胆な振る舞いを起こす気になったらしい。彼女が煎身沙に向け、冷やかなる言葉を投げつけた。

 

「ほんまにあかへん、下賤な密猟者どすなぁ☠ もっとも日頃の生き方がようあらへんさかい、本来かいらしい肝心のグリフォンはんかて、おまいはんたちに反抗するんどすえ☠」


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