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『剣遊記11』

第五章 人質奪還作戦。

     (12)

「うわっちぃーーっ! おれん顔ば舐めんやなかぁーーっ!」

 

 大きなくちばしをカパッと開き、真っ赤な舌で顔面をペロペロと愛撫されては、さすがの孝治も降参気味。この光景を眺め、現在自分が囚われの身である状態も忘れたらしい。いつもの定番であるが、千夏がうらやましそうにつぶやいていた。

 

「孝治ちゃん、いいですねぇ♡ 千夏ちゃんもぉグリフォンちゃんとぉ、お友達さんにぃなりたいですうぅぅぅ♡♡」

 

 くどいようだが、本当に囚われの自分を忘れている。

 

「こないな話、うちかて聞いた覚えがありますえ♠♐」

 

 同じような調子で、人質の弟子からはかなり離れているはずなのに、師匠の美奈子も千夏のつぶやきに同調していた。

 

「成長しはったグリフォンは獰猛なんどすけど、卵からあんじょうよう育てたら、人の言うことによう従いはるかいらしい性格になりはるって、ほんに聞いたことあるんどすが、ここにおますグリフォンかて、大方そんな類でありまんのやろうなぁ♐」

 

 つまり美奈子も、グリフォンの習性にくわしいわけ。

 

「そんとおりだしぃ♨」

 

 小太郎から突き飛ばされて尻餅をついたうえ、散々おもちゃにされていた煎身沙が、空威張りな感じで美奈子に応えていた。やや罰が悪そうな顔をして、ゆっくりと立ち上がりながらで。

 

「このグリフォンは、産まれて間もなくのわかいしゅんとき、オレたちで捕まえたんだしぃ☄ おとなしゅうしなぁ〜〜っと成長したら、なんぼも値が上がさるしのお☀ それをそこにおるヒョウの御仁がかやして横取りしやがったざあ☠♨ こんなことがちかっぺ許せるざあ?」

 

「密猟を摘発したことを、よっぽど逆恨みしてるようだな♨ 『盗っ人猛々しい💀』とはこのことだ♨」

 

 煎身沙の言わば開き直りを、折尾が一蹴してやった。無論これにも、煎身沙が噛みついた(前にも書いたけど、これは比喩です😅)。

 

「うるせえーーっ! と、とにかくおっとろしゃが、そのグリフォンとこのべさ三人を交換だしぃ! まさかこれをあんじょう忘れたわけやあるめえしぃ!」

 

「うわっち! そうやったっちゃね☀」

 

 煎身沙から言われ、一番大事な件を思い出した孝治。ここでなんとか、小太郎の舌舐めまくり地獄から逃れ、改めて周囲を見回した。

 

 もちろん現状は、なんら変わらず。沙織と浩子、さらに千夏の三人が、囚われの身のまんま。

 

「そうっちゃよねぇ〜〜☁」

 

 孝治は深いため息を吐いた。小太郎が人に馴れていようといまいと、事態の好転には、なんの関係もしないのだ。それより早いところグリフォンを引き渡さないと、それこそ人質である沙織たちが危なくなってしまう。


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