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『剣遊記11』

第五章 人質奪還作戦。

     (10)

 そんな孝治に、涼子が再び噛みついた(本当に噛んだわけではなし。あくまでも比喩です)。

 

『そげなん、今んなって後悔ばしたって始まらんでしょ! それよかまた人質が増えちゃったわけっちゃない! ほんなこつこれからどげんする気!』

 

「どげんもこげんもぉ……☁」

 

 我ながら思いつきの悪い自分の頭に、孝治はもろあせり気味となった。もともと一発大逆転のできるような頭脳を持ち合わせていない孝治にとって、今言えるセリフは実際のところ、これしかなかった。

 

「先輩……どげんします?」

 

『けっきょく帆柱先輩頼みやない☠』

 

「しゃーーしぃーーったい!」

 

 涼子からの横ヤリは、この際ほっておく。それよりも帆柱さえ声も出せない中、孝治はまさに八方塞がりの状態。なぜならこのような場合、一番頼りがいのある美奈子でさえ、呆気なく魔術の手を止めて、さっさと両手を挙げていたからだ。

 

「千夏までが捕まってしまいはったら、もううちではお手上げどすなぁ♠ ここはおとなしゅう、降参と参りまっせ♣」

 

 さらに折尾はくやしさと歯がゆさを思いっきり顔に出して(もちろん豹顔であるが、孝治たちはもう、ある程度の表情の見分けができるようになっている✌)、手持ちの剣や短刀などを、ポトポトと地面に投げ落としていた。

 

「こいつらの策略を見抜けんかった、自分の不覚だ……☠」

 

 折尾の部下である場那個と雨森も、同じように早や武装を放棄した。

 

(牛ば買うとき、ちゃんとそん正体ば見極めてからにするっちゃねぇ……っちゅうたかて、これは絶対に無理な相談ちゃねぇ……☠)

 

 これは声に出しては言えない、孝治の愚痴。

 

「よっしゃ☆ 交渉は成立だしぃ♥♥」

 

 キャラバン隊の無条件降伏を見計らってか。煎身沙が勝利の凱歌を上げた。つい先ほどまで落ち込んでいたはずなのに、やはり浮き沈みの極端な野郎である。

 

「ではちょっこしばかり、おめえらのグリフォンをオレらの前に出すんだしぃ♥」

 

「くっ……♨」

 

「調子に乗ってからにぃ♨」

 

 もはや堂々と胸を張って迫る黒ヒゲに逆らう手段など、今の折尾と帆柱には有り得なかった。ここは先ほどからの仕草に伴い、くちびるを噛みながら、相手からの要求に応じるしかないようだ。

 

「グリフォンは、この中やのお?」

 

「へい、そうだしぃ☆ なんせあっしがずっと引いてやしたもんだし✈」

 

 ワーブルの密偵が、千夏のノドに短刀を突きつけたまま、目配せで三台目の牛車を煎身沙に指し示した。

 

「これからいったい、どげんなるとやろっか?」

 

 状況を見守るしかない友美が、不安げにつぶやく前だった。人質を子分たちに任せている親分が両目を輝かせ、牛車の荷台に上がって、幌を大袈裟な動作で両手につかみ、一気にそれを開こうとした。

 

 そのとたんだった。


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