『剣遊記 閑話休題編V』 第二章 大都会、白昼の誘拐事件! (9) その水先案内役である生きた脅迫状が、四人の前でピタリと空中停止した。
「こ、ここっち……?」
孝治は辺りをキョロキョロと見回した。一応地元なので、見覚えのある風景だった。たぶん北九州市街から少しばかり離れた郊外――平尾台の麓と思われる、ススキの茂った原っぱみたいな所である。
「見るがや。犯人グループが僕達をお迎えしてくれとうがね」
「うわっち!」
ここで黒崎に言われて気がついたのだが、孝治たちの前方の原っぱ(少々高くなっている丘の上)に、黒衣を着た一団が待ち構えていた。その中に未来亭支給のメイド服を着ている綾香の姿もあり、彼女のオレンジ系である制服が、黒の中で際立って見えていた。
無論囚われの身である綾香は、連中のひとりからガッチリとうしろに手をつかまれて身体を拘束され、ノド元には定番の短刀が突きつけられていた。
まさに見た目そのまま。完全なる人質スタイルであった。ただし、体中を縄でグルグル巻きにされるような束縛はされていないようだ。これでドジをすれば、人質から簡単に逃げられるかもしれないのに、それだけ自分たちの犯罪に自信のある意思表示なのであろうか。
ここでさらに、黒崎がひと言。
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