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『剣遊記 閑話休題編V』

第二章 大都会、白昼の誘拐事件!

     (4)

「犯人グループから脅迫状が届いたがや」

 

「うわっち! いつもながら早い展開っちゃねぇ♋」

 

 黒崎からの一報を受けた孝治は、別の意味で大いにたまげる気持ちとなった。

 

 ここは先ほどから変わっていない、未来亭一階の酒場。いまだ状況がはっきりとつかめていない孝治たちは、とにかく酒場で待機中。新しい情報の到来を待ち続けていた。

 

 そこへ降って湧いたかのように、黒崎が一通の封書を持って参上した――というわけ。

 

「で、その脅迫状とやらには、いったいなにが書かれておるのかね?」

 

 未来亭にはすでに、連絡を受けていち早く駆けつけてきた衛兵隊の大門信太郎{だいもん しんたろう}隊長らも、孝治たちといっしょに待機をしていた。

 

 その鼻息の荒いこと荒いこと。

 

 もちろん部下である砂津岳純{すなつ たけずみ}や井堀弘路{いぼり ひろみち}たちも同伴中。まるで御隠居にお伴がふたり――の構成である(その他大勢の衛兵隊諸君もいるけど、全然目立たないので紹介は割愛)。

 

「ちょっと待ってほしいですがや。今お読みしますので」

 

 大門には軽く返事を戻し、それから両手で封を開いた黒崎が、中から一枚の便せんを取り出した。彼の背後では、秘書の勝美が心配そうな顔をして、宙にパタパタと浮かんでいた。

 

「犯人たちからの要求は……」

 

 黒崎がツバをゴクリと飲むような感じで、脅迫状とやらを読み始めた。このような雰囲気、孝治も今までに一度も経験した覚えのない光景だった。

 

「初めて見たっちゃけど、店長もすっげえ緊張しちょうばいねぇ☻」

 

「しっ!」

 

 友美が右手人差し指を、自分の口の前で立てた。このふたり(孝治と友美)に限らず今や全員、黒崎の話にジッと耳を傾けていた。

 

「拝啓、だがや」

 

「店長、『だがや』は書いてなかばってん

 

 勝美のツッコミにコホンと咳払いをしながら、黒崎が続けた。

 

「貴殿のところの新人給仕係を、我が方で預かっておるがや。話に聞けばなにやら、この娘は世にも貴重な存在らしいので、それに見合うだけの金銭を要求したいんだがね。特に貴重の中の貴重とも言える娘の頭に生えとう角に指一本触れてほしくなかったら、我々の言うとおりにするだぎゃや。要求はおってまた報せるだがね」(注 『貴殿』は正しくは、男同志の会話に使います。ここではまだ、犯人グループが女性だとはわかっていませんので。また、犯人グループがアホなので、日本語の正しい使い方がよくわかっていないようです(笑)←無理にでも笑って――ってこと)

 

「犯人は名古屋弁で言うてないっち思うっちゃけどねぇ☢ 勝美さんの注意ば、いっちょも聞いちょらんばい☂」

 

 この非常時でも、黒崎へのひと言をやめられない孝治であった。勝美と同じツッコミで。

 

「しっ!」

 

 また友美が右手人差し指を立ててくれた。それはとにかく、黒崎がふっとため息を洩らした。

 

「綾香君の命には何事も変えられにゃーがや。ここはおとなしく、犯人グループに従うがね」

 

 しかしここで大門隊長が、横から早速で口をはさんでくれた。

 

「いやいや、それはなりませんぞ! このような凶悪な輩どもの言いなりなんぞになって犯罪を成功させては、必ず模倣犯どもの跳梁跋扈を招きますからなぁ☠ ここは是が非でも一味を一網打尽に皆殺し……いやいや逮捕して重罪を科して、続く類似の犯罪を未然に防がないといけませんからなぁ♐♐♐ なんの、このわしに任せてくだされば、あしたまでに……いやいやきょう中にも小森江綾香さんとやらの救出を成功させてみせましょうぞ✌」

 

「うわ……また隊長のビッグマウスが始まったばい☠」

 

 大門の背後で砂津が苦い顔付きになっていた。

 

「その言葉が無事達成されたことって、過去にいっぺんもなかっちゃけねぇ☁」

 

 思いは孝治も同じであった。


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