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『剣遊記 閑話休題編V』

第二章 大都会、白昼の誘拐事件!

     (11)

「うわっち!」

 

 孝治は思わず瞳を閉じた。何度も同じことの繰り返しだが、友美と涼子、さらには黒崎までが同様だった。

 

「あれ、なんちゅう魔術っちゃね?」

 

 恐る恐る両手で隠していた瞳を開きつつ、孝治は友美に訊いてみた。友美は頭を横に振ってくれた。

 

「わたしかてやっぱしわからんちゃよ☁ たぶんあいつらが作ったオリジナルの魔術なんやろうけど、紙が光る理屈っちゅうもんが、もうわたしには全然謎っちゃねぇ☢」

 

 しかし話の急展開は、そのようなレベルではなかったのだ。

 

「参ったなぁ〜〜☃」

 

 ようやく目を開いたらしい黒崎が、なぜか急に顔の向きを女魔術師軍団から、あさっての方向に変えていた。

 

「うわっち……なるほどっちゃねぇ☻」

 

 孝治にもその理由が、よく理解できた。

 

「脅迫状そのものが……なんちゅうか、連中のひとりやったとはねぇ☞」

 

 孝治や黒崎たちの前に、新たな美女が出現していた。脅迫状が宙に浮いていた位置の地上に。それも身に一糸もまとっていない、見事なヌードスタイルで。

 

「きゃあーーっ!」

 

 新たに現われた美女が甲高い悲鳴を上げ、その場にて猛スピードでしゃがみ込んだ。

 

「なんでや! なんでこないなときに時間切れになるんやぁーーっ!」

 

 さらに彼女が叫んだ。新登場のヌード美女は関西訛りであったが、その件に関してはツッコミなし。それよりも孝治はこの状況だけで、理由を大いに理解した。

 

「初めて見る魔術っちゃけど、人間が脅迫状に化けて、おれたちばここまで誘導したっちゃけど、魔術の切れる時間が問題やったっちゅうとばいね☻ まさかおれとか店長の目ん前でヌードば公開する破目になるとはねぇ☻☠」

 

 そのしゃがみ込んでいる仲間の(全裸の)美女に、リーダー格の女魔術師が、頭をペコペコと下げていた。ちなみに新登場のほうは年齢の感じが、連中の中で一番若そうに見えた。そうだとすれば『美女』と言うより『美少女』か。

 

「ご、ごめんっちゃ! 話に時間ばかかって、あんたの魔術が時間切れになるなんち、うちも計算外やったわぁ やけど、これも日本ば目覚めさせるための、必要最小限の犠牲っちゅうもんやけ☻ 古き良き日本の伝統のために我慢やね

 

「うわっち?」

 

 言っている意味は孝治にはわからなかったが、これはまた、ずいぶんと間の抜けた誘拐団である。とにかく裸の美少女は、すぐに仲間のひとりから間に合わせのボロキレを受け取り、素早くそれを身にまとった。

 

 やれやれである。さらに言えばその美少女が、チラリと黒崎のほうに顔を向け、もともと赤くなっている顔をさらに濃くするところが、孝治の瞳に写っていた。

 

「……? なんか言いようことがいっちょもわからんちゃけどぉ……で、どこまで話が進んだっけ?」

 

 とりあえず孝治は、一味に問い直した。なんだか馬鹿馬鹿しい気もするのだが。

 

「うおっほん★」

 

 リーダーがわざとらしい咳払いをやらかした。

 

「一応、新生日本のための軍資金っちゅうか、身代金交渉なんやけどぉ……そろそろ話ば戻したほうがええんとちゃう?」

 

 事態がようやく、前に向かって進展を始めたようだ。


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