前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記V』

第四章 大捜査線開幕!

     (7)

 美奈子との交渉を終え、孝治は自分の部屋に戻った。もちろんいつものとおり、友美も部屋に招いて――である。

 

 すると中では、涼子が孝治専用のベッドに座って待っていた。

 

「おっ、帰っとったっちゃね☆ で、なんかわかったとや?」

 

 成果には、なんの期待もしていなかった。だけど涼子が、いかにもなにかを言いたそうな顔をしているので、孝治は一応尋ねてみた。これに涼子は『待ってました!✌』とばかり、孝治と友美に飛びついた。

 

『そんとおりばい!』

 

 幽体なので、激突しても別に実害はなし。むしろ孝治と友美の体をすり抜け、うしろのドアまで通り越す有様となったけど。

 

 それでも涼子の鼻息は、収まらない様子でいた(幽霊は息をしないものだが⛔)。

 

『わかったもなんも、大有りっちゃけね! あたし、重大な手掛かりばつかんじゃったと!』

 

「手掛かりぃ?」

 

 なにやら思いもしなかった話の展開で、孝治は大きな興味を募らせた。

 

 とにかくこれにて、『期待せず』は撤回。孝治はとりあえず、涼子に尋ねてみた。

 

「事件現場に犯人の足跡でも残っとったとでも言うとね?」

 

『正解っ!』

 

「うわっち!」

 

 涼子がいきなり右手のVサインで応じたので、孝治はこれにも、正直たまげた。

 

「ほ、ほんなこつ、そうやったと?」

 

 孝治は半信半疑――いや、三信七疑くらいの気持ちで、涼子に尋ね直した。また、涼子の自信満々な態度に、友美も疑問を感じているようだった。

 

「でも、今までの現場でも、たくさん残っとったって聞いとるっちゃけど……泥だらけの足跡がやね✍」

 

 しかし涼子は右手の人差し指をピンと立て、ちっちっちと横に振る態度にでた。

 

『それは人の足跡の話やけね★ それよかあたしが見つけたんは、衛兵隊の現場検証でも見逃したもんで、それなのに現場にたくさんあった小さなモンなんよ✌』

 

「いつもながら涼子が言うことって、話が見えんちゃねぇ☁」

 

 孝治はわざとらしく、腕を組んで小首を傾げる仕草を取った。勘がけっこうにぶい自分を自覚している孝治は、とにかく抽象的な話のされ方が、大の苦手なのだ。

 

『もう! じれったいっちゃねぇ!』

 

 自分もはっきりと言わないくせして、気が短め丸出しの涼子が、癇癪を爆発させた。

 

 これってかなり、勝手な話ではなかろうか。

 

『手掛かりっちゅうのはネズミのことなんやけね! 事件現場にネズミの足跡がいっぱい残っとったと!』

 

「「ネズミぃ?」」

 

 孝治と友美の声が、今回も見事に重複した。ついでにネズミが集団で金庫を運ぶ漫画のような図を想像して、孝治はブルブルッと頭を横に振った。

 

「で、なんねぇ✄ 涼子は今度の事件ば、ネズミの犯行って言いたかと?」

 

 これには涼子のほうが、やはり頭をブルブルと横に振っていた。

 

『違うっちゃよ! いくらあたしかて、常識ってもんはあるとばい! やけんネズミがやったなんち思わんけね♨ でも犯行にネズミば使ったち考えられんやろっか?』

 

「う〜ん、そうっちゃねぇ……♧」

 

 孝治は再び小首を傾げて考えた。

 

「やけどぉ……そげなたくさんのネズミなんち、そげん手なずけられるやつって、おるとやろっかぁ?」

 

 すると今度は、友美がいきなりパチッと、両手を打ち鳴らした。

 

「わかった……っち言うても推測なんやけどね✍ ワーラット{鼠人間}やったらネズミの大群ば、思うとおり操れるっち聞いたことがあるっちゃよ♐」

 

「ほんなこつ? それって☛」

 

 孝治にとってもワーラットは、決して知らない名称ではなかった。しかし、怪盗一味にワーラットのメンバーがいるなどとは、やはり予想の範囲外だったのだ。その一方で、我が意を得たりとばかり、涼子が友美の推測に、大袈裟な賛同を繰り返していた。

 

『それそれ、それたい! あたしが言いたかことは! きっと犯人の一味にワーラットがおるとやけ! やけんぶ厚い壁なんかも、平気でバリバリやぶくっちゃね!』

 

「なるほどねぇ〜〜♐」

 

 孝治も右手で自分の下アゴをつまんで、一応納得の振りをした。しかしもともと、大した考えを持っていなかった孝治である。この有様では友美と涼子の自信満々な推測に引きずられたとしても、これはこれで仕方がないであろう。孝治はここでも白旗を揚げる気分で、涼子に軽く言ってやった。

 

「わかった★ 今回ばかりは涼子の言うとおりやろうねぇ♠ ワーラットんことはようわからんとやけど、確かにネズミの歯やったら、固い壁でも石でも穴ば開けてしまうもんやけねぇ✐」

 

『今回ばかりって、なんね!』

 

 孝治の多少トゲを含んだ言い方で、涼子がほっぺたをいつものとおりふくらませた。そこへ誰かがコンコンと、ドアをノックする音がした。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system