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『剣遊記V』

第四章 大捜査線開幕!

     (5)

「えっ! 千秋ちゃんがふたりけ!?」

 

 友美も孝治と同じセリフで驚いていた。しかし当の野伏風千秋は、驚きの孝治と友美を、ジッと見つめているだけのまま。

 

これこそ本来の持ち味である、とてもきつい目線でもって。

 

「なんや、あんたらも来とったんかいなぁ♠♦」

 

「う、うっそぉ……☀☁☂」

 

 孝治はまるで信じられないモノを見た気持ちになって、帰ってきた千秋と元から部屋にいる千秋を、首を振って交互に見比べた。

 

 もちろん服装と髪型は、まるっきり違っていた。しかし身長はいうに及ばず、体格や顔形は完全にウリふたつ。いわゆる双子といっても良いのであろうか。

 

 孝治はゴクリとツバを飲みながら、あわわ口調を承知で尋ねてみた。

 

「千秋ちゃんがふたり……? もしかして片っぽは幽霊け?」

 

「しっつ礼なこと言うネーちゃんやなぁ♨」

 

 野伏のほうは、まさにふだんの千秋風しゃべり方。ついでにもう片方の千秋似(?)である少女も、ほっぺたをぷっくらとふくらませていた。

 

「幽霊だなんてぇ、あんまりですうぅぅぅ♨ ぷんぷんぷん♨」

 

「まあまあ、説明は千秋がしたるわ☻ 千夏は黙っときや✍」

 

「はい、ですうぅぅぅ☀」

 

 千秋が少女――『千夏』とふたり並んで、孝治と友美にはっきりと、事情を説明してくれた。

 

「ここにおるんは千秋の正真正銘の双子の妹で、名前は千夏言うんや✍ よう覚えときや☞」

 

「ちなつぅ?」

 

 なにがなんだか訳がわからず、孝治はただ、名前の反復しかできなかった。その理由は服装こそ違えど、顔形がまったく変わらなかったので、孝治は部屋にいた少女を、まさしく千秋だと思い込んでいたのだ。これはまた、友美も同じであったようだ。

 

「ち、千秋ちゃんに双子の妹がおったなんち……わたし、初耳ばい☎」

 

「ほんなこつやねぇ☏ それにまるで、性格も違って見えるとやけど☟」

 

 はっきり言われたとはいえ、やはり半信半疑――いや四信六疑の思いで、孝治は口をとがらせた。ところがこれに対する千秋の反応も、実に堂々としたものだった。

 

「なに言うとんのや! 誰も訊かへんさかい、こっちも言わんかっただけやないか!」

 

「あんねぇ……☠」

 

 さらに反応への反論で返そうとした孝治であった。だけど不毛の論議になりそうなのでやめた。

 

「そ、それはもうよかっちゃけどぉ……なんでまた急に、千秋ちゃんの妹さんが未来亭に来たと?」

 

「それはやなぁ✐」

 

 ここで友美が別方面から尋ねると、千秋がこちらのほうには柔らかい口調で答えていた。

 

「師匠と千秋が、ここ未来亭を本拠にしたさかい、大阪のおばちゃんちに預かってもろうとった千夏も、北九州に呼んだんや✪ これからは三人で世話になるで♡」

 

「へぇ、大阪におったんけぇ✐✍」

 

 孝治も一応、ケンカ腰はやめ。改めて千夏とやらの顔を、真正面から見つめ直してみた。まさに服装髪型は違えど、千秋と姿形が完全に重なり合っていた。

 

「いやですうぅぅぅ♡ 見つめちゃ恥ずかしいさんですうぅぅぅ♡」

 

 千秋の双子の妹――千夏が顔を真っ赤にしながら、超明るい笑顔を浮かべてくれた。しかし孝治は違う意味の所で、姉だという千秋に訊いてみた。

 

「大阪におったっちゅう割には千夏ちゃん、大阪弁ばいっちょもしゃべらんばい✊ これはいったいどげんなっとうとや?」

 

 この問いに千秋が両腕を組み直し、首を右に傾けながらで答えてくれた。

 

「それがやなぁ……これが千秋にも、ようわからんのや☁ 千夏も千秋とおんなじコテコテの大阪生まれの大阪育ちのはずやのに、言葉に訛りがちぃともあらへん✄ ついでに性格も見てのとおり、まるで正反対やねん☜☞」

 

「ほんなこつ、それは不思議っちゃねぇ✍」

 

 孝治も千秋にならって両腕を組み直し、首を右に傾けた。千秋もどうやら、実の妹である千夏の性格をつかみかねているらしい。そこへ今度は、友美が話に突っ込んだ。

 

「それともうひとつ……千秋ちゃんは千夏ちゃんの姉さんよねぇ☞ ふつうそれやったら、よりのほうが先っち思うとやけどぉ……これもなんか意味があるとやろっか?」

 

「そこまで訊きよるんかい☈」

 

 さすがの千秋も、友美の問いに、なぜかタジタジとなっていた。だけども一応、腹をくくったらしい。やや開き直り気味の顔になって、孝治と友美に答えてくれた。

 

「これはほんまは、千秋と千夏は季節の順番どおりで、逆に付ける予定やったらしいんや☹ 前におかんが教えてくれた話やと、千秋と千夏が産まれたときにやなぁ、女の子の双子が生まれた言うておとんが大袈裟に大喜びしてもうて、酒とウイスキーとビールとワインをちゃんぽんで大飲みしたそうなんやわ☠ それでグデングデンに酔うたまんま役場に出生届け出しに行ったとき、命名欄に秋と夏を逆様に書いてしもうたらしいんやで☠ おかげで姉が秋で妹が夏になったっちゅうことやねん☂ ほんまけったいな話やで♪」

 

「なるほどねぇ☻ こりゃまた関西人らしか話ばい♥」

 

 孝治も千秋の説明で、大いに納得の気持ちとなった。

 

 ついでだから、この際である。もうひとつの小さな疑問も訊いてみた。

 

「でも季節やったら、ふつうはから始まるもんやろ♧ 千秋ちゃんは千春{ちはる}って名付けられんかっとね?」

 

「千春はおかんの名前やねん☆」

 

「あっ、そ♘」

 

 これにも孝治は、大いに納得をした。


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