『剣遊記V』 第四章 大捜査戦開幕! (17) さらに両手の形が丸く縮んで、出し入れが自由な猫族特有のかぎ爪に変形。両方のほっぺたにも、涼子にとってはまったくの未経験とも言える、ヒゲが生えるもぞもぞ感が生じ始めた。まあ、女の子だから当たり前か。
これら一連の不思議な感覚が一応終焉を迎えたころには、月明かりだけが頼りだった室内の様子が、まるで真昼のようにはっきりと見えるようになっていた。
すでに二本の足で歩けない体型を認識した涼子は、今の姿を大型の鏡に映してみた。
そこにはいつか屋根の上で見た、白地に黒と茶色が斑模様で調和をしている三毛猫が、確かにいた。
「にゃにゃあーーっ!」
『やったぁーーっ! 大成功ぉ!』と言いかけて、涼子は動物の姿になれば、人語がしゃべれなくなることも再認識した。
しかしそれでも、胸に湧き上がる高揚感は抑えられなかった。
(まあ、これは仕方なかっちゃね♥ それよか強う念じたら、猫に変身できるんやねぇ♡)
こうなったら一も二もなく、孝治たちに再合流するべきであろう。三毛猫となった涼子が、窓から外へ飛び出そうとした。
(もう最高ばい! これであたしの絵ば取り戻せるっちゃね!)
ところがカーテンは開いていたものの、窓ガラスはしっかりと閉じられたまま。これにて見事に、ガタンッと鼻先をガラスにぶつける結果となった。
「にゃあーーっ! にゃにゃあーーっ! (いったぁ〜〜い! これもひさしぶりの感覚なんやけど、それよかこれじゃあ、窓から出られんやない!)」
よくこの衝撃で、体の本当の持ち主――朋子が目覚めなかったものである。
とにかくこれはこれで不幸中の幸い。ここは仕方なく元の人間の姿に戻って、それから自分の手で窓の鍵を開けるしかないだろう。
だけどもいったん変身の要領さえ覚えれば、猫から人間に戻る過程は、極めて速やか。
「ライカンスロープも、人に言えん苦労があるみたいっちゃねぇ……はっくしょん!」
死んで以来(?)、これもひさしぶりに感じる夜風の冷たさが、朋子――涼子の裸の肌には、とても刺激的な感覚となっていた。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |