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『剣遊記V』

第四章 大捜査戦開幕!

     (15)

 このような他愛のない出来事(?)など、まるで無視の態度。隊長の大門が、孝治に声をかけてきた。

 

「おまえたちの作戦どおりにここまで来たが、賊どもはまだこの店の中におるのか? それならば早く追わんと、街からおらんごとなってしまうではないか♐」

 

 大門を始め衛兵隊の面々も、コスモスのおかげで怪盗団の海外高飛び計画を知っていた。そのためだろうか。大門はかなりあせっているようだった。早くも家宝であるという日本刀――虎徹を鞘から抜いて振りかざしている姿を見ても、孝治には大門の頭の中が、容易に想像できていた。

 

 ついでに孝治は、このド迫力に、正直ビビッた。

 

(ヤバっ☠ 人ば斬りとうてウズウズって感じばい……☠)

 

「ま、まあ、落ち着いてください……コスモスん花で怪盗団の動向は探り済みやっち思いますけど、賊どもはとっくにこっから逃げてますっちゃよ☞」

 

 かなり怖じ気づきながらも、孝治は言葉をしぼって、大門をなだめようと試みた。しかしよく考えてみれば、これではどう見ても、逆効果そのもの。特に相手が短絡思考の傾向がある場合、大失敗の典型的事例となるであろう。

 

「ぬわにぃーーっ! それでは手遅れではないかあーーっ! だいたいおまえは戦士の端くれにおりながら、のんびり構えすぎではないのかあーーっ!」

 

 まさに案の定の結果である。それでも孝治は、弁明をやめられなかった。

 

「い、いや、賊かてそーとーデカい金庫ばかかえちょるわけですから……そげん逃げ足は速ようないっち思いますけどぉ……そこで、ここにおる狼🐺の出番っちなるわけです……狼の嗅覚で、賊が逃げたあとば追いますけ♐」

 

 しょっぱなから短気を暴発させ気味の大門。そんな衛兵隊長をこれ以上刺激しないよう、孝治は言葉に注意しながら、自分のうしろに控えている正男を紹介した。

 

 ところが大門は、灰色の毛皮をした狼をひと目見るなり、不審をあらわに言い捨ててくれた。

 

「なんだ☁ ただの犬っころではないか☠」

 

「がうっ!」

 

 やはりなんの気配りもない暴言だった。おかげで頭にカチンときたらしい。正男が大門に飛びかかりそうになった。

 

 恐らく人間の姿でいれば、『ちゃうわい!』と言いたかったに違いない。それを孝治と秀正のふたりで、大慌てで体を抑え、力を込めてなだめてやった。

 

「待てっ! 気持ちはわかるけ! やけど、おれに怒るんならまだ良かけど、隊長に襲いかかったら、あの刀で一撃されるけね!」

 

「ぐるるるっ!」

 

 さすがのワーウルフも、斬られて死ぬのは怖いに決まっている。半分脅しに近い孝治の説得を渋々受け入れてくれたようで、正男がおとなしく頭を垂れて引き下がった。

 

 そんな健気な正男の気持ちなど、知るはずもなし。大門が無神経発言の駄目押しをしてくれた。

 

「犬っころごときとはいえ、なかなか威勢は良さそうだな☆ とにかく賊の追跡は任せるぞ☀」

 

「ぎゃん!」

 

 正男が再び吼えるが、大門にとってそれこそ、カエルのツラになんとかなのだろう。平然とした態度で無視と侮辱を繰り返し、部下である衛兵隊一同に、新たな指示を出していた。

 

「よいか、おのおの方ぁ! きょうこそは北九州市衛兵隊の名誉にかけて、怪盗どもを一網打尽にしてくれるのだぁーーっ!」

 

「おおーっ☹」

 

 衛兵隊の士気のほうは、もう少しのようだった。

 

「こげなんでほんなこつ、大丈夫なんやろっか……☁」

 

 あまり生気を感じられない今の掛け声で、怪盗団退治の前途多難性を胸に抱いた者は、果たして孝治だけであろうか。

 

「わたしも……すっごう心配ばい……☁」

 

 少なくとも友美も、同感のようである。


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