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『剣遊記V』

第四章 大捜査線開幕!

     (13)

「孝治ぃーーっ!」

 

 そんな孝治と友美が立ちんぼをしている店前に、やはり別の店で張り込んでいた秀正が走ってきた。

 

 秀正もまた、青いコスモスからの報せで、現場が宝石商である状況を知ったのだろう。しかもこの盗賊は、大きな犬型の獣をいっしょに連れていた。

 

「よぉ、秀正! それに正男も来たっちゃね♡」

 

 孝治は大型の獣を、『正男』と呼んだ。また獣のほうも、孝治に応えてノドをゴロゴロと鳴らした。

 

「ぐるるるっ!」

 

 孝治は獣に言ってやった。

 

「なんにしても、やる前から変身しちょるところが、すっげえ張り切りようっちゃねぇ♡ その自慢の嗅覚で、賊の追跡ば頼むけね♐ こげなときは犬の鼻が頼りなんやけ♡」

 

 ところが孝治の発言には、一部不用意――かつ不適切な部分があったようだ。

 

「がうぅっ!」

 

 突如獣の態度が急変。怒ったようにして、孝治に吼え立てた。

 

「うわっち! 言い方間違えた! ごめん!」

 

 孝治は慌てて、獣の前から一歩退いた。秀正がそんな孝治を、含み笑い気味に忠告してくれた。

 

「馬鹿やねぇ☠ 正男はなんやけ、犬っち言われるんがいっちょん腹が立つっちゅうことば忘れちょったとね☠」

 

 正男――狼🐺は、孝治のセリフに『犬』なる単語が含まれていたことが、本当に気に喰わなかったようなのだ。

 

 とにかくここまで話が進めば、もうおわかりであろう。ここにいる犬型の獣は狼🐺であり、盗賊枝光正男が変身をした姿――彼はワーウルフ{狼人間}なのだ。作戦実行前に涼子が友美から正男の正体について教えられ、それから大いに驚いた理由は、実はこのためだったのである。

 

 実際、すでに友美から話を聞いているとはいえ、この場に涼子がいれば、どんなに珍しがって喜んだことであろう。さらに正男はいっちょ前に誇り高き狼🐺なので、そのせいか人間に従属している犬たちを、非常に軽蔑していた。

 

 ついでに申せば、しっぽを振ったことなど、一度もなし。

 

 孝治は狼が犬を見下す気持ちは、なんとなくわかるつもりでいた。だからと言って、犬が狼より劣るとも、考えてはいなかった。しかし、正男とこの議論になれば、いつも不毛の論争となるのだ。だから踏み込んだ話は、もうやらないようにしていた。

 

 要するに、うやむや。

 

 その思いは棚に上げ、孝治はとりあえず頭を下げた。狼姿でいる正男に向けて。

 

「しばらく御無沙汰しとったけ、すっかり忘れとったっちゃね☁ ほんなこつごめん☂」

 

 すると狼こと正男が、『以後気ぃつけや♨』と言わんばかりに、グルルッと鼻を鳴らした。

 

 これさえなけりゃ、物分かりが良うて扱いやすいやつなんやけどねぇ――と、孝治は顔に出さないようにして、こっそりとつぶやいた。

 

「見てん☞ 衛兵隊も来たっちゃよ☀」

 

 ここで友美が右手で指差した先から、大門隊長を先頭にした北九州市衛兵隊の一団も駆けつけてきた。


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