『剣遊記V』 第四章 大捜査線開幕! (12) ところが店の一歩手前で、涼子が急にストップ。
『う〜ん✍ 相手がワーラットやったら、こっちもなんか対抗できる動物が要るっちゃねぇ♐ ネズミの相手っちゅうたら、当然……☆』
そこまで勝手につぶやいてから、涼子が突然踵を返す。目指す宝石商とは、正反対の方向へ。
もちろん孝治は、文句を張り上げた。
「うわっち! こ、こらぁ! 事件現場ば前にして、どこ行くとやぁーーっ!」
しかし涼子は振り返りもせず、言い訳だけを残して、さっさと飛んで行くだけだった。
『ごめぇ〜〜ん! ちょっといいこと思いついたけぇ、そこで待っちょってぇ!』
「待っちょってぇ……って、あ、行っちまったぁ……♨」
いったいなんの理由があるのか。涼子の考えなど、孝治にわかるはずはなし。呆気に取られた気持ちとなって、孝治は宝石商の正面で、ただ呆然と立ち尽くすだけでいた。
「なんするつもりやろっか? 涼子ったらぁ……☁」
友美も孝治と同じ思いなのだろう。涼子が飛んでいった先を、ポカンと口を開けたままで見つめていた。
孝治は吐き捨てるようにしてつぶやいた。
「知らんちゃよ♨ 幽霊が考えることなんちねぇ……涼子にはそれなりに力になってほしいっち思って、ここまで来てもらったっちゅうとに……♨」
実際孝治は、次のように考えていた。それは暗い室内での捕り物が予想されていたので、孝治は涼子に石見のときと同じく、丸い発光球体になってもらいたかったのだ。
さらにここぞのときには、ポルターガイスト{騒霊現象}を起こさせる作戦も意図していた。
しかし肝心の涼子がいなくなったのだ。これにてすべては御破算。あとはおのれの剣の実力のみで、やれるところまでやるしかなかった。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |