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『剣遊記V』

第四章 大捜査線開幕!

     (11)

 孝治は走った。さらに友美も疾走。涼子がそんなふたりを、空中から先導していた。

 

 三人は、美奈子が担当している宝石商とは違う店で、怪盗団を張っていた。それが美奈子から渡されていたコスモスの束の内の一本――青い花から、怪しい声が聞こえたのだ。おかげで慌てて、当番店から飛び出す破目となった。

 

 青いコスモスからの発信は、美奈子と弟子の双子姉妹が張り込みを担当している宝石商に、怪盗団が現われた事態を示していた。

 

「ちっくしょう! こげん早よう怪盗が出たら、こっちの心ん準備が間に合わんやろうがぁ! ちっくしょう!」

 

 夜の大通りを全速で駆け抜けながら、孝治はつまらない愚痴を繰り返した。

 

 実際、どこに出没するかもわからない怪盗団逮捕のために網を張ったものの、まさかきょうの内に彼らが現われるとは、前述である美奈子はもちろん、孝治でさえも、まったく考えていなかったのだ。

 

 みんながみんな、長期戦を覚悟。最短でも一週間、ヘタをすれば一箇月でも粘る気持ちでいた。

 

 それがコスモスから聞こえた敵の親玉らしい声から察すると、怪盗団も怪盗団なりに、盗みの御用納めを考えているらしかった。つまり今夜の仕事を終えたら、この町からの逃走――さらには海外高飛びさえも企んでいるようなのだ。

 

 そうなれば一大事。さらに仮定をして、もしも張り込みが一日でも遅れていたとしよう。孝治たちは怪盗どもがとっくに逃亡したとも知らず、藻抜けの殻となった街で延々と、無駄に捜査の網を張り続ける事態になっていた。

 

 そんな間抜けを考えたら、予想よりも遥かに早く敵が網にかかった展開は、むしろ超幸運な出来事なのかもしれない。

 

 孝治は現在女性である。しかし幸運の女神はなぜだか嫉妬をせず、実に有り難い御加護を与えてくれたようだ。

 

『孝治っ! こっちばい!』

 

 コスモスの発信からは、ワーラットの暗躍も伝わっていた。そのためか、自分の推理がピタリと的中した話の展開で、涼子は少々有頂天気味。当然ながら、孝治と友美よりも断然に張り切っていた。

 

『やけん言うたでしょ♡ あたしの勘は絶対当たるって✌』

 

「勘のことは当たってから言い出したっちゃろうが! 初めはただの推測やったんやけね!」

 

『見えてきたばい! あん店よ!』

 

 孝治の嫌味など、完全に無視。現場である宝石商が近づくにつれ、涼子が浮遊速度をぐんぐんと上昇させた。


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