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『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (8)

「さてと……♠」

 

 だいたいの人数がそろいつつある中、孝治は友美と涼子を連れて、美奈子の部屋に行くようにした――と、その前に、テーブルから抜き足差し足忍び足で離れようとしている、ひとりの盗賊の背中が瞳に写った。

 

「おい、正男✋」

 

「げっ☠」

 

 孝治は声をかけてみた。正男の背中が、ビクッと停止した。孝治は構わず、声をかけ続けた。

 

「ちょうどええっちゃ☆ 正男も海賊退治に来んしゃいよ✌ どうせ秀正に仕事ば盗られて暇なんやろ⛾ 店長、冒険申請一名追加でぇ〜〜っす♡」

 

「わかった。了承するがや。勝美君、さっそく手続きを済ませてくれ」

 

「はい、店長♡♡」

 

 黒崎も勝美もノリノリであった。

 

「ちょい待ちや♨」

 

 おのれを差し置いて勝手に話を進める孝治たちに、振り向いた正男が文句を垂れた。

 

「確かにおれは暇やけどなぁ!」

 

「威張って言うんやなか☻」(孝治のツッコミ)

 

「やけどおれは戦士でも魔術師でもなか、一介のただの盗賊なんやけね! そげな民間人のおれが、海賊相手になんができるっちゅうとやあ!」

 

 これに孝治は、澄ました顔で応じてやった。

 

「いろいろできるっちゃよ☀ なんちゅうたかて正男はワーウルフ🐺{狼人間}なんやけ、臭いば嗅いだりっとか、敵に噛みついたりっとか引っ掻いたりっとかやね♐♒」

 

「そこまでやれば狼🐺やなか! 犬🐶さえ越えて、ただの猫🐈ったればい!」

 

「ええーーっ! この人、ワーウルフなぁん!」

 

 正男とは今回、仕事で初めていっしょになる静香が、思わず的な驚きの声を上げた。すると黒崎までが、孝治のセリフに悪乗りを始める始末となった。

 

「そうだなぁ、正男も盗賊の腕だけじゃなくて狼としての戦闘力に優れているから、今回の場合は適役かもしれんがや」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ちんしゃいよ、店長!」

 

 おのれの立場を完全に無視され、どんどん進みそうな話の展開に、正男が慌てて止めに入ろうとした。だけど、黒崎の次の言葉が、ある意味決定打となった。

 

「今度の依頼は岡山県だけじゃないがや。続いて香川県からも来る可能性が大だから、そうなれば君たちに支払う報酬額も、いつもの二倍に増額できるかもしれんがね」

 

「わっかりました♡ おれも行きますけ♡」

 

 変わり身の早いワーウルフであった。

 

 とにかくこれにて、最強(?)の戦士たちがそろい踏み。この実に頼もしい顔ぶれで、今回の主役である桂は、早くも心ウキウキの面持ちでいた。

 

「やったぞな、永二郎さん♡ これで海賊を退治して、第五開陽丸のみんなを助け出せるんやが♡」

 

 ところが逆に、永二郎のほうはと言えば、なぜかあまり浮かぬ顔付きをしていた。

 

「うん……でもこの人選……やしが全然まとまりが無さそうだわけさー☁」


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