前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記\』

第三章 南から来た大海賊。

     (7)

『きゃっ!』

 

 さすがの幽霊も、これは驚きものだった。なにしろ次は声だけでなく、その持ち主(発声源)までが、涼子の体そのものを、まるで突風のようにして通り抜けたからだ。

 

 これらすべての行動ぶりは、幽霊涼子の存在を感知していないからこそ可能な荒技。しかも通り抜けた者は、革の鎧を着た孝治と同業の女性戦士(?)。それもふつうの戦士ではなく、背中からは純白の鳥の翼が広がっていた。

 

 孝治はすぐに、翼を持つ――いや生やしている戦士に顔を向けた。

 

「うわっち! 静香じゃん☞ 今ん話ば聞いとったとね?」

 

 翼の静香も、すぐに応えてくれた。

 

「聞いてただよぉ! だからあたしも仲間に入れてほしいんだがねぇ♣♠」

 

 翼の女性戦士――バードマン{有翼人}の少女石峰静香{いしみね しずか}が、もはや定番である予告なしの登場をしたにも関わらず、孝治に直接仲間入りを頼み込んできた。肝心の黒崎や帆柱を差し置いて。

 

「静香君は確か……魚町君といっしょに愛知県まで商隊護衛の遠征に行っとったんではにゃあかな?」

 

 それでも相変わらず冷静な黒崎が、これまた冷静極まる口調で、静香に尋ねた。すると当の静香は、急に涙😢声になって訴えてきた。

 

「進一さぁったら、またあたしさ煙に巻いて、ひとりで名古屋までいぐんだがらぁ! そらぁ、うんまか無かんべぇ!」

 

「なんだ、やっぱりそうだったがやか」

 

 黒崎が『魚町君』と呼び、静香が『進一さぁ』と呼んでいる男とは、これも孝治の先輩で帆柱とは同期にあたる戦士――魚町進一{うおまち しんいち}である。また魚町は、静香とは許嫁の関係にあるのだが、なぜかいつもひとりになりたがり、彼女から逃げ回る純情者でもあった。

 

 その背たけは優に、孝治の三倍近くはあると言われているのに。

 

「そげん言うたら魚町のやつ、出発前に『今度の仕事は女性には危ないっちゃねぇ☢』っち言いよったばいねぇ✍」

 

 ここで帆柱が同期を庇う言い方をするのだが、当然聞く耳を持つ静香ではなかった。

 

「そんなこと、あたしは世話ねぇだぁ! あたしはまあず進一さぁの役に立ってんだぁ! 絶対足手纏いみたいなみっとがねえことはねえ!」

 

「わかった、わかった。そげん事情やったら、今回は俺たちについて来るっちゃよ☢ 魚町と今度会{お}うたら、俺からひと言言うとくけ♐」

 

 半分取り乱し気味である静香を前にしては、さすがのベテラン戦士帆柱も、タジタジ模様となっていた。

 

「はい、行っできます! こうなったらまっと手柄さ立てて、いっからんぺー(群馬弁で『いい加減』)な進一さぁの鼻さ明かしてやるんだがらぁ!」

 

「そげんわけったい☞ 静香もいっしょにつれて行くっちゃけ✈」

 

「はぁ〜〜い☺」

 

 これにて先輩戦士帆柱の意向に従ったわけだが、孝治としても、静香の飛び入り参加には、特に異論はなかった。なんと言ってもバードマンである静香の飛翔能力が、海賊との戦いで味方に大きく貢献をする展開に、百パーセント以上の期待が持てるからだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system